婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
どうして、何も言ってくれないの……?
こんな風になってしまった今だって、貴晴さんを信じたい気持ちの方が大きい。
もしかしたら、私の考えていることとは違って、全部勘違いだったなんてことだってあるかもしれない。
だけど、貴晴さんは黙ったまま、ただ一点を見つめている。
その様子は、縋りつきたい気持ちの私にとどめを刺した。
「里桜、ごめん。このままここで、待っていてくれる?」
「……?」
「どこにも行かないで、逃げないで、ここで必ず待ってて」
急に何を言い出したかと思えば、貴晴さんは一方的に約束をするようにして足早にリビングを出ていってしまう。
置き去りにされた私はその場に立ち尽くし、少しすると脱力したように冷たい床の上に座り込んでいた。
「っ……うっ、っ……」
嗚咽が込み上げて、呼吸が乱れる。
これまで不思議と出てこなかった涙が今になって全部出てきているように、床についた手の甲を濡らしていった。