婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
自宅に向かいながら事の事情をざっと話すと、晴斗は面倒くさそうに「勘弁してくれよ……」とため息交じりに呟いた。
「それはこっちのセリフだ」
子どもの頃から、顔がほぼ同じことで厄介なことに巻き込まれることは少なくなかった。
お互いに〝それ、俺じゃないし〟という経験は山ほどある。
「で……俺はその証明のために連れ出されたってわけか」
「そういうことだな」
なぜか横からフッと笑う気配を感じ取る。
ちらりと目を向けると、その頬に笑みが載っていた。
「お前が女にそんな気を使うなんて、よっぽどだな」
これまでの俺を見てきて、こんな行動に出たのは初めてだからだろう。
今までなら、勘違いされて終わるならそれまでという程度だった。
ここまでしようと思う気持ちなんて知らなかった。
「気を使ってるとかじゃない。大事なんだ。どうしても手放したくない」
はっきりとそう答えると、晴斗は「……へぇ」と言うだけだった。
「……お前こそ、あの彼女はどういうことだ」
臨月も近そうな、そんな様子だった。
身内として、特にまだ何も報告を受けていない。
「近いうちに、また話すから」
晴斗は落ち着いた声でそう答えた。