婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
「う、うそ……」
放心状態の私を見て、自己紹介してくれた晴斗さんという方は、なぜだかクスクスと笑っている。
そして貴晴さんに「これでもういいか?」と訊いた。
「ああ、悪かったな」
「これでお前の潔白が証明されたんだったら、無駄ではなかっただろ。貸し一、な」
踵を返しかけた晴斗さんが振り返る。そして、私に向かってにこりと微笑んだ。
「弟のこと、よろしくお願いします」
貴晴さんと同じ顔で貴晴さんのことをお願いし、晴斗さんはひとりリビングを出ていった。
貴晴さんに、双子のお兄さんが……。
一気に知らされた事実に処理が追いつかない。
でも、思いもよらない展開に脱力してその場にへたり込んでいた。
「里桜、大丈夫?」
すぐさま貴晴さんが駈け寄ってきて、私の前で腰を落とす。
目の前で視線が重なり合うと、またぶわっと涙が目に浮かんだ。
「良かった……良かったよぉ……」
安堵から溢れ出した涙が止まらない。
貴晴さんは黙って、そんなぼろぼろの私を腕の中に包み込んだ。