婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 背の高い成海さんが視線を合わせるようにして私の顔を覗き込む。

 美しい顔が近付いただけでドキンと鼓動が跳ね上がり、目を見開いたまま固まってしまった。


「えっと、あの……」


 近距離で顔を見つめられて、どこを見たらいいのかわからず視線をさまよわせていると、腕を掴んでいた手が離れ、頭の上をぽんぽんと撫でられた。

 小さい子どもの頭にでも触れるような、優しい触れ方。

 そっと視線を上げて成海さんを見ると、目尻を下げて柔らかい笑みを浮かべていた。


「じゃあ、言い方を変えようかな……良かったら、もう少し付き合ってもらえませんか?」

「えっ……?」

「帰りのことは心配しないで。家までちゃんと送り届けます」


 誠実な態度と言葉でそう言い、成海さんは私の返事をじっと待つ。

 これまでの緊張が最高潮に達して、返事が言葉となって出てこない。


「って……こんな強引に誘われても、困るよね。ごめんね」

「い、いえ! あの……私で……お付き合い、できるのでしたら……」


 なんとか振り絞って返した返事に、成海さんはふわりと微笑み「ありがとう」と言ってくれた。

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