婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 こんな素敵な男性が、私なんかに声を掛けてくるなんて有り得ない。

 そう思ったから、誘われた時に返事がすぐに出てこなかった。

 冗談?からかわれてる?

 そんな風にしか思えなくて……。

 だけど、私のそんな気持ちは無駄だったと思わせるように、成海さんは私とグラスを重ね合わせた。

 先ほどの部屋を出て、連れてきてもらったのは更に上の階にある会員制のバー。

 一般庶民が訪れることの許されない空気の中、スタッフは成海さんをよく知っているようだった。

 薄暗く雰囲気を作っている店内からは絶景を望め、その眺めに見惚れてしまう。

 横浜の街が煌めいて眼下に広がっていた。


「ごめんね。急に付き合ってほしいなんて誘っちゃって」

「い、いえ。そんなことはないです」

「そう? それならいいんだけど。あんなことになって、お詫びしたい気持ちもあってね。嫌な気分でお帰りいただくのも、って……」

「そんな……元はと言えば、私の管理がなってなくて起こしてしまったことですし……謝るのは私です」


 後方のソファ席には何組か客がいるものの、カウンター席には私たちの他に客の姿はなく、ふたりきりの空間のような錯覚を起こす。

 となりから成海さんを盗み見ると、横顔の綺麗さに思わず釘付けにされる。

 パーツも肌も髪の流れも、全てが完璧で美しい。

 じっと見ることすら申し訳ない気持ちになって、気付かれないうちにカウンターの上に視線を落とした。

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