婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


「里桜さん、と呼んでもいいですか?」

「あ、はい……」

「里桜さんは、ずいぶんと謙虚な方ですね」

「え?」


 どういうことだろうと小首を傾げると、成海さんはこちらを見て口元を緩める。


「いえ、以前にも別の会場で同じようなことが起こってしまったことがありまして……その時の方は、非常にお怒りになって、なんとかお詫びさせていただいたのですが」


 当時のことを思い出したのか、成海さんは苦笑を浮かべる。

 この反応を見ると、かなり難癖をつけてくるお客だったのかもしれない。

 それこそ、警察を呼んで大騒ぎしたとか、訴えると言い出したとか、そんな展開が予想できる。


「なので、そんな風に思ってしまいました」

「そう、だったんですか……なんか、大変なお仕事ですね」


 客商売はなんでもそうだろうけれど、こういう特殊な業界は苦情やトラブルも多そうだ。

 真摯に対応しなければ、評判も一気に悪くなってしまう。

 今の世の中、口コミはかなり重要だ。


「まぁ、そうですね。でも、人様に喜んでもらえることも多い仕事なので、やりがいは大いにあります」

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