婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 できる範囲で鏡の前で自分を整え、レストルームをあとにする。

 柔らかい絨毯の通路を歩く自分の足下は、ふわふわと浮いているような感覚がある。

 付き添いのパーティー中に間を持たせるために次々と飲んだのが、今頃になって酔いが回ってきているようだ。

 戻っていくと、バーの入り口前で成海さんがひとり待っていた。

 壁に背中を預け、スマートフォンをチェックしている。


「すみません、お待たせしました」


 小走りで近付いていくと、成海さんは見終えたスマートフォンをしまい「全然待ってないよ」と微笑む。


「行こうか」

「あ、はい……」


 エスコートするように背中に手が添えられ、エレベーターホールへと向かっていく。

 肩越しに背後に振り向くと、成海さんは私の胸の内を察したように口を開いた。


「これ以上飲ませない方がいいかな、と思ったからさ。チェックしたんだ」

「あ、はい……」


 成海さんにも、私がかなり酔っている様子はお見通しのようで、今更飲み過ぎたことを後悔する。

 エレベーターを待つ扉の前で成海さんを見上げ、「あの……」と声をかけた。


「ご迷惑をかけて……すみません」


 そんなタイミングでエレベーターが到着し、無人のその中へと連れていかれる。

 扉がしまると、成海さんは私の顔を覗き込んだ。


「そんな可愛い顔で男を見上げると、どうなるか教えてあげようか?」

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