婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
こめかみに口付けられ、そのまま部屋の奥へと連れていかれる。
間接照明の明かりだけに落とされた部屋からは、窓の向こうに広がる夜景がよりくっきりと見えていた。
ベッドメイクされた乱れのないシーツの端に私を座らせると、成海さんはスーツのジャケットを脱ぎ、そばにある椅子の背もたれにそれを掛ける。
すぐに私の真横に腰を下ろすと、覗き込むようにして顔を見られた。
目を合わせると、呼吸の仕方を忘れてしまったかのように胸が詰まる。
ドッドッと心臓の音だけが響いて聞こえ、吸い込まれるように自分が映り込んだ瞳を見つめ返した。
後頭部を手で支えられ、そっと肩を押されると、体がベッドへと沈んでいく。
真上から成海さんの傾いた顔が近付いてきて、「私……」と蚊の鳴くような声が自然と出てきた。
「その……経験が、なくて……」
男性とのお付き合いどころか、接することも苦手と吐露してしまったから、成海さんだってある程度は予想ができているのかもしれない。
だけど、念を押すつもりで敢えて口に出す。
私の言葉を受けた成海さんは、穏やかな笑みで目尻を下げた。
前髪に触れ、額を出すように髪を梳かれる。
その手はこめかみを通って下りてくると、頬をさらさらと撫でて包み込んだ。