婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
今の職場の社員寮に住んでいることもあって、合鍵は事情を話すと大家さんにすぐの出してもらうことが叶った。
住み慣れた部屋に戻ると、幽体離脱するように力が抜けていく。
驚くほどあっという間に睡魔に呑み込まれて、気付くと夜勤へと出勤する一時間前まで爆睡していた。
こうして素面で冷静になって考えてみると、やっぱり昨日の自分の行いは〝過ち〟としか言い表せない。
軽々しかったと思う。
あんな風に初対面の男性に自分の全てを曝け出し、一線を越えてしまったこと……。
今までの自分には考えられない、誰か別人が乗り移っていたのではないかと疑える行動の数々だった。
でも、昨夜の私はそれでいいと身を委ねた。
たとえ一夜限りでも、この人とまだ同じ時間を共有したい。そう、思ってしまったから……。
夢のような時間の中で、私はあのひととき彼に恋したのだと思う。
すぐに終わる夢だとわかっていて、終わりが見えている恋に落ちたのだ。
もう二度と会うこともない方。
だからこれ以上うじうじ考えず、綺麗な素敵な思い出として、自分の中に封印しようと思う。
「紀平さん、仕事入る前に志村さんが事務所顔出してって」