婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 伏せられていた衝撃的な理由に、返す言葉を見失う。

 そんな……私と働くのが嫌だってクレームが……?

 全く身に覚えがない。

 そこまで仲良くしているスタッフもいないけれど、誰とでも挨拶は交わすし、たまに世間話をしたり、それなりに上手く人付き合いもしてきたつもりだ。

 業務も足手まといにならないように仕事は覚えてやってきたつもりだけれど、人事にクレームを出すくらい私と仕事をするのがやり辛い人がいたのだろうか……。

 そんなことなら、私に直接文句を言ってくれればよかったと思う。

 知らないところで話題に上がり、知らされた時には異動のお知らせ。

 こっちに非があったにしてもこれでは理不尽すぎる。


「そういうことだから、早いところ新しい住まいと、引っ越しの手配をお願いします」

「そんな……」

「今回の異動に不満があるなら、うちを辞めてもらってもいいんだよ?」


 とどめを刺すような言い方をした志村さんは、「詳細は追って書面で」と言い残し、応接室を出て行ってしまう。

一気に告げられたこれからの自分の状況に、頭の中で整理が追い付かないでいた。

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