婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
『お父さん、もし詐欺なら、望むところだ、って……』
「いや、望むところって、詐欺にかかっちゃダメでしょ!」
『里桜、大丈夫だ、父さんに任せておけ!』
突如、電話口に父親が現れる。
すでにこっちの話が届かなそうな声の調子に、掛ける言葉を見失う。
「お父さん、任せておけって、絶対そんなおかしな話――」
『とにかく、話は東京に行ってからだ! 待ってろよー!』
「え、ちょっ、お父さん――」
『――もしもし、里桜、そういうわけだから』
電話口が父から母へと戻される。
「そういうわけだから、って……」
『里桜も知ってるでしょ? お父さん、こうなると聞かないのよ』
「そう、だけど……」
『近々東京には、あなたに会いに行く予定でいたし、大丈夫よ。少しでもおかしかったら、すぐに交番に駆け込むわ』
最後の最後まで考え直してと言い続けたけど、父の状態に取り付く島もなく、東京に来る詳細を聞かされた。
その時には必ず私も立ち会って、この絶対に騙されそうなおかしな話を阻止しなくてはならない。
すでに臨戦態勢になりながら、実家との通話を終わらせた。