婚前溺愛～一夜の過ちから夫婦はじめます～

〝日野さん〟の正体

　両親と電話で話した、翌週の週末――。


「……本当にこれ、着てくの……？」


　去年の夏に友達の結婚式の二次会に着た、アイスブルーのよそ行きワンピース。

　クリーニングに出してクローゼットにしまい込み、その後出番もなく一度も出さなかったから、引き渡された時のビニールがかかったままだった。

　ビニールから取り出し、「うーん……」と唸る。

『場所も高級ホテルみたいだし、何があるかわからないんだから、一応正装で来てちょうだい』

　昨晩、電話で話した母親がそんなことを言っていたのを思い返す。

　今日、両親が石川からやって来る。

　例の〝日野さん〟という人からの申し出のお見合いの日だ。

　都内の老舗高級ホテルのレストランで予定されているらしく、両親とは現地で落ち合う約束をしている。

　しかし、本当にそんなお見合い話があるのだろうか……。

　話を聞いた当初から、私はずっと疑っている。

　降って湧いたようなそんな話、絶対に詐欺か何かに違いない、って。

　いろいろ調べ上げて、東京から石川の実家にまで行ってと、かなり手の込んだやり方だけど、今どきの詐欺はそのくらい巧妙なのかもしれない。

　だから、うっかり話に乗りかけて東京に来てしまった両親は、私が犯罪に巻き込まれないように見守らなくてはならないのだ。