婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
座り心地の良さそうなソファが点在しているロビーにはホテル利用者が多く掛けていて、この辺りで待っていればいいかと見付けた空いている場所に向かっていった。
しかし、何気なく向けた視線の先、思わず二度見してしまう人の姿を見付ける。
足は止まり、確かめるように目を凝らす。
まさか、こんなとこに……。
他人の空似、だよね……?
いつも職場で見ている、車椅子の姿。
きっちりと整えセットされたグレーの髪は、洋司さんと同じ髪型。
だけど、こんなところに洋司さんがいるはずがない。
そうわかりきっているはずなのに、あまりに似ていて確かめるように凝視してしまう。
車椅子へと人が近づいてきて、慣れた操作でくるりとこちらに方向転換させられる。
見えていた横顔が真っ直ぐにこっちを向き、それが間違いなく洋司さんであるということに目を見開いた。
「洋司さん、なんで――」
思わず駆け寄って声をかけようとしたものの、今度は踏み出した足が止められる。
その車椅子の背後に立つ人の顔を見て、息が止まったような感覚に陥った。