婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 なん、で……。

 すらりと高い背に、仕立てのいいスリーピース。

 緩やかに流れる艶髪の元にある均整のとれた美しい顔は、時間が経っても忘れはしない。

 成海さんが、どうして……。

 鼓動がひとりでに高鳴りだしていく。

 その音が大きく自分自身を包み込んで、周囲の音はもう聞こえていなかった。


「おお、里桜ちゃん!」


 洋司さんが私を見付け、車椅子が近付いてくる。

 それを押す成海さんが柔和な笑みを浮かべて私を見つめていて、混乱し始めた頭が真っ白になった。

 洋司さんと、成海さんは知り合い……?

 でも、どうしてこんなところに……?


「洋司さん、どうして……今日、外出許可取られていたんですか――」

「里桜!」


 そんな時、後方からよく知る声に名前を呼ばれる。

 振り返るとそこには両親がいて、母親がこっちに向かって手を振っていた。


「お母さん……」


 ホッとしたのも束の間、現れた両親と共に見知らぬ男性の姿が見える。

 きっちりとスーツを着た、歳の頃は四十代くらいと思われる男性。

 まさか、あの人が石川まで行った結婚詐欺の主犯格……!?


「会長、お連れいたしました」

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