婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 えっ……? 会長……?

 両親と共にやってきた男性が私を横切り向かった先は、後方にいた洋司さんの元。
 一体どういうことなのだろうかと、その様子を見守る。


「紀平さん、この度は遠いところを、私のわがままを聞いていただきありがとうございます。日野、と申します。このような姿で申し訳ないですが――」


 そう言って、洋司さんはスーツの懐から名刺ケースを取り出す。

 ちょっと待って……。今、日野、って……。

 どうして今の今まで、洋司さんの苗字が〝日野〟だということに気付かなかったのだろう。

 いつも〝洋司さん〟と呼んでいるからというのもあったけれど、私の中で今回の話と洋司さんが繋がるはずもなかったのだ。

 いつの間にか両親が私の横へと立ち、車椅子に掛けたままの洋司さんから差し出された名刺を受け取る。


「あ、ありがとうございます」


 これは一体どういうことなのか……。

 ということは、お見合いの話を実家に持ち掛けたのは、洋司さんだったということなの……?

 でも、そのお相手って……?

 正常に働かない頭でそこまでをやっと考えて、洋司さんの背後に立つ成海さんへと目を向ける。

 不意に目が合ってしまい、慌てて目を逸らした。

 ま、まさか、ね……。


「こんなところで立ち話もなんですから、場所を変えましょう」


 洋司さんの一声で、予約しているというレストランに入ることになった。


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