婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


「里桜ちゃんには、私が今、お世話になっているんですよ」

「ということは……里桜の職場の施設に、日野さんが」


 父親の察しに、洋司さんは「はい」とにこかやに答える。


「仕事をよくやっているのはもちろん、いつも明るくて元気で、私たちまで元気をもらえる。みんなよく言っていますよ、里桜ちゃんは本当の家族のように接してくれるって」


 両親を前にこんな風に褒めてもらうのは気恥ずかしいけれど、洋司さんがそんな風に言ってくれるのは素直に嬉しかった。

 近頃は仕事のことで落ち込んでいたから、こんな風に言ってもらえたことで気持ちが救われる。


「それに、こんなに可愛らしいお嬢さんだ。ぜひ、うちの孫のお嫁にもらいたいと、爺さんのわがままでしてね」


 そう言った洋司さんは、成海さんへと顔を向ける。


「彼は、私の長女の息子になります」


 洋司さんに紹介されて、成海さんが私たちに向かって頭を下げる。


「成海貴晴(たかはる)と申します」


 落ち着いたその声も、端整な顔に浮かぶ穏やかな表情も、完全に一致している。

 なにより、口にされたその名はあの日にいただいた名刺と間違いなく同姓同名。

 まさか、そう思っていたことが現実となった瞬間――私は正面の成海さんから目が離せなくなっていた。

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