婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
「それじゃ、里桜。また連絡するわ」
お見合いの食事の席を終えると、両親はホテルからタクシーに乗って宿泊先の別のホテルへと去っていった。
滞在先も洋司さんの手配してくれた高級ホテルで、母は泊まるのが楽しみだとワクワクしていた。
「洋司さん、なんか様々とすみません……両親の航空券や宿泊先までお世話になってしまって……」
「そんなことは気にしなくていいんだよ。むしろ、遠くから無理言って来ていただいて、その程度じゃ足りない。それなのに里桜ちゃんのご両親は謙虚な方々だ。今の今まで受け取れないと遠慮されていた」
洋司さんはハハハッと機嫌よく笑い、私を見上げる。そして、いつも通り穏やかに微笑んだ。
「あとは、若いふたりの時間としようかね。貴晴、里桜ちゃんをよろしくな」
「はい、もちろんです」
洋司さんにそう言われた成海さんは、はじめ両親を連れてきたお付きの人に「お願いします」と車椅子を任せる。
「では、里桜ちゃん。またいつものところで」
「はい。お気をつけて」
ホテルのロータリーには、運転手付きの黒塗りの高級セダンがハザードランプをつけて停まっていて、洋司さんはその車に乗ってホテルをあとにした。
行っちゃった……。
去っていった車を見送ると、その場には成海さんとふたりきりになる。
どうしよう。そう思った時、成海さんが「お送りします」と切り出した。