婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


「それじゃ、里桜。また連絡するわ」

 お見合いの食事の席を終えると、両親はホテルからタクシーに乗って宿泊先の別のホテルへと去っていった。

 滞在先も洋司さんの手配してくれた高級ホテルで、母は泊まるのが楽しみだとワクワクしていた。


「洋司さん、なんか様々とすみません……両親の航空券や宿泊先までお世話になってしまって……」

「そんなことは気にしなくていいんだよ。むしろ、遠くから無理言って来ていただいて、その程度じゃ足りない。それなのに里桜ちゃんのご両親は謙虚な方々だ。今の今まで受け取れないと遠慮されていた」


 洋司さんはハハハッと機嫌よく笑い、私を見上げる。そして、いつも通り穏やかに微笑んだ。


「あとは、若いふたりの時間としようかね。貴晴、里桜ちゃんをよろしくな」

「はい、もちろんです」


 洋司さんにそう言われた成海さんは、はじめ両親を連れてきたお付きの人に「お願いします」と車椅子を任せる。


「では、里桜ちゃん。またいつものところで」

「はい。お気をつけて」


 ホテルのロータリーには、運転手付きの黒塗りの高級セダンがハザードランプをつけて停まっていて、洋司さんはその車に乗ってホテルをあとにした。

 行っちゃった……。

 去っていった車を見送ると、その場には成海さんとふたりきりになる。

 どうしよう。そう思った時、成海さんが「お送りします」と切り出した。

< 59 / 223 >

この作品をシェア

pagetop