婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
「え、でも……」
「里桜さんさえよければ、もう少しお話できれば」
首を傾げて私を覗き込んだ成海さんは、あの日と同じように柔らかい笑みを浮かべる。
断る理由もなく「はい……」と頷きながら、鼓動はまた早く大きく音を立てていた。
両親や洋司さんが同席していた席では、成海さんと私が直接言葉を交わすことはほとんどなかった。
互いのことは洋司さんと私の両親が代わりに話し、当の本人たちは横で微笑んでいた状態だった。
ホテルのバレーサービススタッフがロータリーに用意した成海さんの車は、シルバーの車体がきらりと磨かれた高級外車だった。
「どうぞ」
「すみません、お邪魔します……」
丁寧に助手席の扉を開けて、私を乗車させてくれる成海さん。
こんな富裕層の人が所有しているような車に乗った経験は今まで生きてきた中で初めてで、土足で乗ってしまっていいものかと思ったほどだった。
シートの座り心地も車の乗り心地とは思えないもので、体を包み込むようにフィットする。
落ち着かない気持ちで車内を観察しているうち、成海さんが運転席へと乗り込んでくる。
その姿をじっと横から見ていると、突然、目を合わせた成海さんの体が私へと向かって覆いかぶさるように近付いてきた。