婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


「っ……!?」


 周囲にはホテルマンもいるのに――そう思って咄嗟に目を瞑ると、目の前でフッと笑ったような吐息が聞こえた。


「シートベルト、締めるね」

「……あっ、は、はい!」


 一体、何を勘違いしたのか……。

 近付いてきた成海さんにキスでもされると思った、この思考回路自体が恥ずかしい。

 自分の取ったあからさまなリアクションに自ら赤面する。

 成海さんは固まった私にシートベルトを着用させると、自分のシートベルトも締め、静かに車を発進させた。

 ふたりきりになって初っ端から笑われてしまった恥ずかしさと、何から話したらいいのかわからない緊張が相まって、ひたすら黙って窓の外の景色を見つめる。

 信号で車が停車すると、横顔に成海さんの視線を感じた。


「大丈夫? 強引に乗せちゃったけど、車が苦手とか、ないかな?」

「えっ、あ、いえ、大丈夫です」


 成海さんはそんな風に言うけれど、さっきの誘い方には全然強引さなんてなかった。

 こういう気遣いをしてくれるなんて優しすぎる。


「ずいぶん驚いた顔してたね」

「えっ……?」


 突然そんなことを言われて、つられるように成海さんに顔を向ける。

 私の視線を受けた成海さんは、ちらりとこちらを見て、その口元に笑みを浮かべた。

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