婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


「幽霊でも見たような、そんな顔だった」

「それは……」


 もう、会うこともないと思っていた。

 あの夢のような一夜は、私の中ではやっぱり綺麗な夢であって、あの日限りで終わったものだった。

 この夢に続きはない。そうわかっていたから、あの日だってそっと静かに立ち去ったのに……。


「そんなこと言いますけど、成海さんは驚かなかったんですか?」


 成海さんは顔には出なそうなタイプだけど、持ち掛けられたお見合いの相手が私だって知った時、絶対に驚いたはず……って、ちょっと待って……。


「この話が出る前から、里桜さんのことは知ってたから」


 さらりとそんなことを言った成海さんは、信号で停車していた車を発進させる。


「里桜さんは気付いてなかったかもしれないけど、祖父の施設で何度か見かけていたんだよ」


 そこまで言われて、不思議に思ったことが繋がっていく。

 それじゃあ、やっぱり……。


「じゃあ、もしかして、あのお見合いパーティーの日、すでに私のことを……?」

「うん。だから、どちらかというと、あそこで里桜さんに会ったことに俺は驚いたかな」


 衝撃的事実に言葉を失う。

 もう会うこともないと思っていたのは、私だけだったということ……?


「あの日……どうして黙っていなくなっちゃったの?」

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