婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
成海さんが、私に交際を申し込もうと思っていた……?
ますます頭の中は混乱を極める。
「どうして、そんなこと……」
「そんなこと?って」
「私なんかと、交際、なんて……」
その言葉を口にするのも恐れ多くて、言葉尻が消えかける。
膝の上へと顔を俯けると、成海さん側の頬にふわりと大きな手の平が触れた。
「言ったよね? あなたは運命の人だって」
あの夜、酔っていたけど覚えている。
『あなたはどうやら、私の運命の人のようだ』
私の人生には縁のない言葉だと、他人事のような感覚でその言葉を聞いていた気がする。
「一目惚れしたっていうのも、嘘ではないよ。一生懸命仕事をしてる姿、初めて見た時に目が離せなくなった」
そう言われたこともはっきりと覚えている。
じゃあ、私の知らないうちに成海さんは私のことを見かけて、それで……。
「ごめんね。だからあの日、どうしても近付きたくて、引き留めちゃったんだ。こんな気持ちになったこと、今まで経験したことなくて……」
そう言った成海さんは自嘲気味に笑って「里桜さんは盗難に遭って、それどころじゃなかったよね」なんて付け加えた。