婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 横から真剣な眼差しで問いかけられ、シートベルトを外そうとしていた手が止められる。

 退職は、正直何度も頭をよぎった。

 介護の仕事を嫌いになったわけじゃないけど、異動したって、また知らぬ間に今回のようなことが起こるかもしれない、と……。

 心機一転、転職をするのもいいかもしれないと何度も考えた。


「これを機に、転職を考えてみたりしないかなって。うちの会社に」


 まるでエスパーのように、成海さんは私の悩んでいたことを提案してくる。

 でも、うちの会社って……!?


「……。えっ、成海さんのって、私が、ですか!?」

「うん。介護職、ではないけど、人のためになる仕事という点では同じだよ」


 さっきのお見合いの席でも成海さんの会社の話には終始感心していた。

 結婚相談所としては歴史も実績も業界トップ。

 伝統を守りながら、時代のニーズに合った企業展開を繰り広げている。

 そんな大手企業に、私なんかが務まるはず……!


「私、そういう大きな会社に勤めたことがなくて……だから、その……」

「大丈夫。手取り足取り教えてあげるし、俺も目の届くところに里桜さんを置いておきたいんだ」

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