婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
「それにしても、奥手な里桜がずいぶんと大胆なことしたよね。その相手、どんな人か気になるー。やっぱイケメン?」
直球で『イケメン?』なんて訊かれ、勝手に恥ずかしくなってしまう。
私が今までの人生で出会った男性の中で、一番容姿端麗なのは間違いない。
笑って曖昧に頷くと、日菜子は「あ、でも」と何かを思い出した。
「里桜はそこらへんのイケメンじゃ靡かないもんねー。ほら、高校の時に近くの私立のすっごいイケメンに捕まって告られた時も、断ったくらいだもんね」
「あっ、あれは違うよ。そういうの、当時は無理で……それに、私なんかじゃなくてもたくさん女子は……」
忘れかけていた昔の思い出を掘り返されて、ついむきになって言い返してしまう。
語尾を濁すように桃の果肉が入ったフローズンドリンクをずずっと吸い上げた私の様子に、日菜子はクスクスと肩を揺らして笑った。
「まぁ、そんなこともあったけど、とにかくそんなだった里桜を射止めた彼はすごいってことだよね。要するに、間違ってもいいって思えちゃったというか、そういうことでしょ? 里桜に限って、そういうの一番縁遠い話だと思ってたから」
自分自身でも未だにそう思っている。
あの日の私は、やっぱり……。
「その瞬間でも、一晩でも……この人に恋してみたいって、思って……」
包み隠さず正直にあの時の気持ちを告白すると、日菜子は茶化すことなく見守るような優しい笑みを浮かべた。