婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
異動を言い渡されたとき、今まで頑張ってきたことや努力してきたことを全部否定されたような気持ちにさせられた。
引きずっていたその気持ちが、洋司さんの言葉と温かい微笑みに救われる。
「ありがとう、ございます……」
また自然と涙を浮かべてしまった私を、洋司さんは「里桜ちゃんは涙もろいなー」と豪快に笑った。
「人生長い中で、不条理なことや理不尽だと感じることは、真面目に生きている人こそ遭遇しやすい。だけど、大丈夫」
「……?」
「人に優しくできる人は、必ずそれが自分にも返ってくる。だから里桜ちゃんは、必ず幸せになれる」
洋司さん……。
いつか、洋司さんが言ってくれていたことを思い出す。
『見ている人はちゃんと見ている。だから、負けちゃいけないよ』
こんな風に言ってもらえるのは、見てもらえていたからなのかな、と思う。
理不尽な目に遭ってしまった事実に変わりはないけれど、自分がやってきたことを認めてもらえたことで気持ちは救われていくようだった。
今までやってきたことは、無駄になんかなってない。そう、思えた。
「ほら、また泣く。これじゃあ私が泣かせているみたいじゃないか。貴晴に怒られてしまうよ」
洋司さんはそう言ってまた笑い、私の腕を優しくとんとんとした。