婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
溺愛同居のはじまり
「以上で大丈夫ですかね。では、また現地でお願いします」
「はい、わかりました。お願いします」
朝の十時に約束していた引っ越し業者は、ふたりのスタッフで社員寮を訪れた。
段ボールにまとめておいた荷物や使っていた家具をテキパキと運び出し、あっという間に住み慣れた部屋は殺風景な空間になってしまった。
「名残惜しい?」
がらんとした部屋を眺めていると、背後から成海さんの気配が近付いた。
運び出しの作業が始まってすぐ、成海さんは私の部屋を訪れてくれた。
日曜日の今日も成海さんはお仕事があるらしく、現れた姿は明るいネイビーのスーツ姿だった。
スリーピースのジャケットを脱いだベストに、グレー地のレジメンタルタイのコーディネートは今日もオシャレで、顔を合わせた瞬間どきりとしてしまった。
「東京に出てきて、初めてひとりで住んだ部屋なので……そうですね、ちょっとだけ」
初めて実家を出て独り暮らしをした思い出の部屋。
都会に出てきて、唯一心を休められる自分だけの場所がこの部屋だった。
疲れて帰って来た日も、落ち込んで帰った日も、ここは変わらず私を出迎えてくれた。
「そっか」
成海さんはぽつりとそう言って、後ろから私の頭の上をぽんぽんと撫でた。