婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
その通路を、成海さんは私の手を引いたまま右手に進んでいく。
「この階は、俺たちの部屋と、もうひと部屋しか住まいがないからね」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。このマンション自体、全世帯で二十もないんだ」
外観から見ても不思議な形をしていたから、住人同士のプライバシーも守られる造りなのかもしれない。
ホテルの通路のような空間を突き当たりまで進むと、ダークブラウンで木目調の重厚なドアが現れる。
成海さんは慣れた動作でカードキーをドアにかざすと、ハンドルを手に玄関を開け放った。
同時に、玄関の照明がオートで点灯する。
「どうぞ」と成海さんに先に中に入るよう促され、「お邪魔します」とドアの向こうに足を踏み入れた。
ドアが閉まる音がした直後、背後でくすっと笑うのが聞こえる。
「お邪魔します、か。今日からここに住むんだから、ただいま、って言わないとね」
「あっ……そう、ですね」
つい人の家に遊びに来たみたいな感覚でいたけど、ここが今日から自分が住む家なのだ。
そうわかっていても、どうも実感が全然湧かない。
部屋の中はやはり白い壁で、床とドアはダークブラウンの木目調だった。
私の住んでいた社員寮の部屋とほとんど同じくらいの広い玄関を上がり、白い壁に囲まれた廊下を進んでいく。
開けた奥のリビングを目に、思わず入り口で足が止められてしまった。