婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
「いいよ、そんな気を使わなくて」
「いえ、でも」
成海さんは棚からコーヒーを淹れるサーバーやドリッパーを取り出すと、「あ、そうだ」と手を止めた。
「その前に、他の部屋も見てもらわないとだったね」
「あ、はい……」
「こっちだよ」と突っ立つ私の肩を抱いて、成海さんはキッチンをあとにする。
リビングダイニングの他には部屋が三つあり、更に広いバスルームにトイレ、収納も専用の部屋があった。
最後に残ったドアを開け放つと、その先には大きなベッドがどんと置かれてある。
「ここは寝室」
気持ちよさそうなネイビーのシルク生地のシーツがかけられたベッドは、ダブルより広いと思われるキングサイズ。
鎮座するベッドを前にして、成海さんと共にしたあの夜のことがフラッシュバックしてしまった。
途端に心臓が驚いたように跳ねて、胸の内側で激しく打ち付ける。
ベッドの上で浮遊しているような意識の中で見た成海さんの艶っぽい姿が鮮明に蘇ってくる。
慌ててそれをかき消すように「あのっ」と背後の成海さんに振り返った。
「ん?」
「あの……寝室は……ここで、一緒に、なんでしょうか?」