婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
◇side Takaharu
普通の感覚なら、彼女のこの反応はまともなのだろう。
パーティー会場が一度目、お見合いの席が二度目、そして今日……。彼女にとっては、今日を含めて顔を合わせたのは三度目なのだ。
それなのに、婚姻届をいつ出しに行こうかなんて生き急ぐようなことを言われたら、戸惑うし困惑する。
今、目の前で見ている彼女の反応は至って普通のものに違いない。
何やらかしてるんだ、俺は。
顔色ひとつ変えないで、心の中で自分を非難した。
彼女を初めて目にした時のことは、今でもはっきりと鮮明に覚えている。
それほど衝撃的で、深く記憶に刻み込まれ、一生体験することはないだろうと思っていた感覚だった。
それは、祖父の入所する施設でよく見る光景のひとつだった。
訪れた祖父の部屋の窓から、入所者に手を貸し外を散歩しているスタッフが目に入った。
なんの前触れもなく、ただ突然に、目にした彼女に釘付けにされていた。
どこにとかではない。
その存在自体に惹きつけられた。
ただ、こんな風に落ちてしまうものかと、自分自身が信じられなかった。
それは言葉で表現するなら、時が止まるような出会いだった。