婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
 きっと彼女は、トントン拍子に進むこの状況に、心の中では間違いなく狼狽しているのだろう。

 俺のことだって、よくわからない男という位置づけだと思う。

 なにしろ、まだ三度目なのだ。


「……わかった。今すぐにこれを出しに行こうとは言わない。だけど、俺もこう見えて気が長い方でもないんだ」


 彼女の大きな瞳が、じっと俺を捕らえる。

 さらりと落ちてきてしまう絹のような髪をやっと耳にかけ終えると、出した頬に指を這わせた。


「ここで一緒に暮らして、里桜さんが俺のことを好きになってくれるように努力する」

「努力、なんて、そんな……」

「だから、里桜さんが俺を好きになって、生涯添い遂げたいと思ってくれたら、これを書いてもらってもいい?」


 彼女の気持ちを尊重しながら言ったつもりの言葉も、結局は迫ったような言い方になってしまう。

 自分の気持ちが抑え切れていないことに焦りを覚えたものの、彼女が「わかりました」と頷いてくれたことにホッと安堵した。


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