婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
何もかもが新しい朝
いつも通り枕元に置いたスマホが、最大音量でアラームを鳴らす。
その時刻は朝五時三十分。
今までは七時に起床する生活だったけど、これからはそうはいかない。
寝返りを打つベッドは、いつものシングルサイズの自分のベッド。
だけど、薄暗い部屋は今まで見てきた自分の住まいとは違う、まだ慣れない高級マンションの自室だ。
ベッドから起き上がり、スマホと一緒に置いておいたヘアクリップで髪をまとめる。
そろりと部屋を出て洗面室へと向かい、顔を洗って歯を磨く。
まだ寝起きでメイク前の、冴えない顔をしている鏡の中の自分と見つめ合いながら、昨晩のことをぼんやりと思い返した。
婚姻届をいつ出しに行くかと訊かれて即答できなかった。
私なんかと本当に結婚する気なのか……そんなこと、今更口にしたらいけないような気がして、聞かなくてはいけないと思っても言い出せなかった。
『あなたじゃないと……里桜じゃないとだめなんだ』
耳元で囁かれた言葉と、甘く奪われた唇の感覚が、一晩経った今でも頬を赤らめる。
どうして、そんなことを言ってくれるのかな……?
その後、成海さんは爽やかに「一緒に住むのに成海さんもないから、名前で呼んで」と言い残し、「おやすみ」とリビングを去っていった。