婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
ガラスのボールにサラダを盛り付けていると、背後から腰回りに腕が回ってきて、思わず変な声を出してしまう。
眼下にダークグレーのクレリックシャツとスクエア型のカフスを見て、振り返るように顔を上げた。
「おっ、おはよう、ございます……」
全く気配に気付けなかった。
顔を合わせると、貴晴さんはにこりと微笑んで「おはよう」と言い直してくれる。
すでに着替えてネクタイまで締め、髪もいつも通りばっちりセットされていた。
「ずいぶんと早起きだね」
「いえ……これくらいに起きないと、手際が悪いので……」
回っている腕にギュッと力が込められて、そわそわし始めた気持ちが落ち着かない。
貴晴さんはそんな私の状態に気付いていないのか、肩口に顔を寄せてくる。
「引っ越しもしてきたばかりで疲れてるはずなのに、無理しなくていいんだよ?」
気遣う言葉を掛けつつも、「俺は嬉しいけど」と言ってくれる。
「大丈夫です。それに、大したものではないので……」
「そんなことないでしょ。朝からこんなに作れるなんて優秀だよ」
やっと腕を放した貴晴さんは「何か手伝うことある?」と、今度は横から私を覗き込む。
朝っぱらからこの猛烈に整った顔に近距離で見つめられると心臓がもたない。
「もう並べるだけですので、座ってください」
誤魔化すようにそう言って、冷蔵庫にドレッシングを取りに行った。