婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
初めての新居での食事は、和食の朝食になった。
野菜をたくさん入れた具だくさん味噌汁に焼き鮭の切り身、厚焼き玉子と大根サラダというメニューだ。
向かい合って席につき、並んだ品を見てこれじゃ質素だったかな、と不安になる。
貴晴さんは「いただきます」と箸を手に食事を始めた。
「美味しそう」
「お口に合えばいいんですが……」
「……うん、美味しい」
お味噌汁のお椀から顔を上げた貴晴さんは口元に笑みを浮かべる。
すぐにお箸で具の野菜を摘まんだのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。
「社員寮にいた頃、普段から料理はしていたの?」
「時間のあるときには、はい……でも、そんなに本格的なものは設備的にも作れなかったので」
「そっか。もし、必要なものがあったら知らせてね。用意するから」
「はい。でも、十分取り揃えてもらっていて、不足はないと思います」
基本の調理器具はもちろん、最新家電であろうものまで置かれていた。
むしろ、私がこの万端な設備を使いこなせるかが問題だ。持て余してしまいそうな予感すらする。
ちゃんと説明書読んでおかなくちゃ……。
「なんか、いいね。こういう風に食卓を囲むのって」
「……?」
「うちは、母親が早くに亡くなったから、家族で食事を取ることが少なかったんだ。父親は忙しくてほとんど家にいなかったから」
「そう、でしたか……」
家族で食事を取ることは、私にとっては日常のことだった。
だけど、幼い頃にそれが叶わなかった貴晴さんにとっては、こんな光景も尊いものなのかもしれない。
そう思うと、これから共に過ごす中で大切にしていきたい時間だと思えた。