婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
和やかに食卓を囲み、食事も終盤にさしかかった頃、貴晴さんが「今日なんだけど」と話を切り出した。
「何か予定は?」
「今日、ですか。いえ、特には」
部屋の片付けをしたり、時間があればこの辺りを歩いて何があるかを見てこようと思っていたくらいだ。
特にこれといった予定はない。
「それなら、会社に連れていこうと思うんだけど、どうかな?」
「えっ、貴晴さんの会社、ですか?」
「うん。どんな会社か見てもらって、それで働くか決めたらいいかなって思って」
介護の仕事を辞めて、自分のところに転職しないかと言ってくれていた。
仕事の内容は全然違うけど、人のために働くことには変わりないと聞いて、私にもできるなら働いてみたいと興味は湧いていた。
「はい、行ってみたいです。ぜひお願いします」
「じゃあ、決まり」
食事を終えた貴晴さんは「ご馳走様でした」と食器を下げてくれる。
まだ食卓についたままの私の元に戻ってくると、不意に頭の上に手を置いた。
「美味しかったよ、ありがとう」
大きな手がぽんぽんと髪を撫でていく。
さり気ない優しい言葉にどきりとしながら、「お粗末様です」と笑みを浮かべた。