恋ごころは眼鏡でも見えない
昼食を食べ終わった真理ちゃんは図書室に本を返しに行った。放課後に行く予定だったけど、私と早く帰るために昼休み中に行くそうだ。


真理ちゃんはそういうとこがかわいすぎる。


真理ちゃんが教室を出たあと、やることもなく席でボーッとしている。真理ちゃんの借りてた本、難しそうだったな。小学生の頃から読書が趣味だった。


真理ちゃんは顔だけじゃなく頭も良い。


真面目だけが取り柄だった私が、あくせく勉強してる横で真理ちゃんは読書してた。そのくせ軽々と私の点数越えてくる。その事で僻んだ私がキレてケンカしたっけ。

今はそんなことはない。真理ちゃんが見えないところで努力してるのは、長い付き合い故に知っている。……要領の良さはうらやましいけど。


話し相手もいなくなり、手持ちぶさたでスマホをポチポチいじっていると、


「小林さん、朝はごめんなさい」


突然の声に顔を上げると、目の前に新山君がいた。

「新山君?! へ? 朝? 朝ってなに?」


不意討ち過ぎて、挙動不審だ。
だって急に目の前にイケメンが現れたんだもん。
眼鏡がなくてもイケメンだってわかる。オーラが違う。


「高橋が小林さんのこと……じ、地味眼鏡って」


新山君は極めて言いにくそうに私のあだ名を口にした。


やっぱり、あそこの席は新山君だった。で、私を地味眼鏡と呼んだ男子生徒は高橋君だったようだ。


「気にしてないよ! 本当のことだし、分かりやすいでしょ? 地味眼鏡ってあだ名」


「ごめん……」


明るく言ったつもりだったけど、新山君は縮こまってしまった。もしかして、嫌味に聞こえた?


「ほんっと気にしてないから!大丈夫!」


たいして絡んだことのない私に謝りに来るなんて、新山君は律儀だなぁ。というか、謝りに来るのは高橋だろ。いや謝って欲しいわけじゃないけど。


そうだよ、地味眼鏡って呼んだのが高橋君なら


「なんで、新山君が謝るの?」


小首を傾げると、またたく間に新山君は真っ赤になってしまった。


なんで?


真っ赤になって口をぱくぱくさせている新山君なんて、見たのは初めてで驚いた。


授業で急に当てられた時でもこんな顔は見ない。

9割すらすら答えている。残り1割の問題だけ、ムッと1秒考えて解りませんと即お手上げする潔さなのだ。


そんな新山君を眺めていると、チャイムが鳴った。


「ごめん」


新山君はそう言い残してそそくさと席へ戻って行った。


え、行っちゃうの? なんだったの?


午後の授業は新山君のことばかり考えてしまって、身が入らなかった。

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