恋ごころは眼鏡でも見えない
「よかった~。怒らせたかと思って、午後の授業中ずっと新山君のこと考えてたんだよー」
新山君の表情が固まった。もしかして私、今すごく気持ち悪いこと言った?
「……というのは冗談だけど……」
急いでごまかす。
「……冗談かー」
呟く新山君がなぜか項垂れて見える。私、またなんかやらかした?
それはそうと、新山君が隣の席の椅子に座ろうとしているのはなぜだろう。ボーッと見つめてると、新山君が口を開いた。
「小林さん、桐生(きりゅう)待ち?」
「あ、うん。そう」
桐生は真理ちゃんの苗字だ。ずっと真理ちゃん呼びだから苗字忘れてた。
「モテるね、桐生」
「いやいや、新山君が言う?」
「俺、全然モテないよ」
「うそ」
新山君はファンクラブまでできてるというのに、そんなことを言う。でも非公式だから、本人は知らないのかな?
告白とかされてるだろうし、モテる自覚がないとは思えない。
「ほんと、モテない」
隣に座った新山君は頬杖をついてこちらを見つめる。
うそだ。こんな仕草一つひとつが決まってるのに、モテないはずがない。
「座らないの?」
促されるまま座る。
「今日、眼鏡違うね」
驚いた。今日の眼鏡が違うことに触れた人は初めてだ。よく見てるなー。
「……うん。眼鏡壊して代理を掛けてる」
「眼鏡って意外と強いよな。どうやって壊したの?」
新山君は澄んだ瞳で問うてくる。
しまった! 壊したって言わなきゃよかった!
女子としては、眼鏡叩き折るってのは恥ずかしい壊し方だよね。
腕力ゴリラかよって。
でも……少し悩んで正直に言うことにした。
「目覚まし時計を止めようとして、間違えて叩き折っちゃったの」
恥ずかしさから新山君を見れずにいると、隣から吹き出す声がした。
新山君の笑い声だ。
腕力ゴリラで引かれるより、笑ってくれる方がありがたい。
…………
……ってか長いな!まだ笑ってるの?
「そんなに面白い!?」
「だって、小林さんが、眼鏡叩き折るとか、予想外過ぎて」
笑い声の合間にそう言う。笑いすぎてヒーヒー言ってる。
ちらりと新山君の様子をうかがう。目に入ったまぶしい笑顔に慌てて目をそらす。
突然の刺激に、心臓が激しく脈打ってる。
「……恥ずかし」
思わずそう呟く。顔が赤くなっていくのがわかる。
恥ずかしい。
正直に言ってしまったことも、新山君に腕力ゴリラを笑われたことも、新山君の顔を直視できないことも。
最後のが一番大きな理由だけど。
「かわいい」
「は?」
「眼鏡、似合ってる」
「あ、ありがとう」
心臓が止まったかと思った。
社交辞令だとわかってても、王子さまな新山君に言われたらやばい。
なにがやばいって、非公式ファンクラブへの入会を考えてしまう。
ためらいなく女子にかわいいとか言える新山君はなんなの? それは天然? それとも計算? 女たらしなの?
新山君が天然でも計算でもどちらでも言えることは、モテないなんてうそだ。