ココロの好きが溢れたら
風呂場を洗い終えてリビングに戻ると、陽毬は取り込んだ洗濯物を畳んでいるところだった。
オレンジ色の夕陽が窓から差し込む中のその優しい光景に、思わず見入ってしまった。
少しして、ふいに顔を上げた陽毬が俺を見てふわりと柔らかく笑う。
その笑顔に、俺の胸がトクンとひとつ音を立てる。
あー…
これ、やべぇかも。
思わず壁に片手をついて、その手の甲に額をつけた。
「え、ハル?どうしたの?」
陽毬が様子のおかしい俺に近寄ってくるのが分かる。
「ハ、ハル…どうしたの?大丈夫?」
大丈夫じゃねえよ。
どうしてくれる。
「なんでもない。ちょっと立ち眩みしただけだ。ほら、洗濯物畳むんだろ」
「え、あ…うん」
言えるわけないだろ。
あの瞬間「誰にも渡したくねぇな」とか「触れたい」なんて、らしくない事を考えてしまったなんて。
俺はこの日、確実に陽毬に惹かれていっている自分にやっと気づいた。
「遅すぎんだろ…」
でも、やっと気づいた気持ちだからこそ、大事にしたい。
この想いをゆっくり育てて、大きくなって気持ちが溢れた時、陽毬に伝えよう。
今はまだ開きかけの蕾が、いずれ満開になるまで。それまで、待っていて欲しい。
きっとそれは、遠くない未来にあるはずだから。