ココロの好きが溢れたら
「お前が不安に思ってる陽毬ちゃんの遠慮ってのは、付き合ってからお前が頑張れば良い。ちゃんとお前が陽毬ちゃんに「好きだ」って態度と言葉で粘り強く伝えていけば、きっと陽毬ちゃんだって遠慮せず甘えてくれるようになるよ。
今までゆっくり2人で進んできたんだろ?なら、付き合ってからもゆっくり進めばいいんじゃねぇの」
先輩の言う通りだ。
俺は何に悩んでいたんだろう。
好きと伝えてもいないのに、付き合った後のことを考えて悩んで。
自分を嫌いだと言う俺に陽毬が近づくためには、踏み込みすぎない「遠慮」が必要だった。
そのおかげで俺も陽毬と上手くやってこれたんじゃねぇか。
なら、今度は俺が陽毬に「甘えること」を教えてやれば良い。
ゆっくり、俺と陽毬のペースで。
「先輩も舞子さんに甘えてますもんね」
「んー?何のことだか分かんねぇな」
惚けたって無駄ですよ。
クライミング部のみんなは知ってる。
先輩がわざと、ちょっと抜けたところがある性格を演じていること。そして、子供のように甘えるのは舞子さんにだけだってこと。
それが先輩なりの舞子さんへの愛情表現。
そうやって舞子さんだけが特別だって、舞子さんにも、周りにも示してるんだ。
舞子さんもそれを分かっていて世話を焼いている。とても幸せそうに。
「良かったですね、唯一の欠点が方向音痴で。じゃなかったら舞子さんに出会ってないですもんね」
「うっせ」
風呂を出る頃にはずっと胸の中で突っかえていたものが取れた気がして、スッキリとした気分になっていた。
「ありがとうございます、先輩」
「お礼はジュース1本でいいぞ」
俺の前を歩く先輩の背中は広くて大きかった。