私、愛しの王太子様の側室辞めたいんです!【完(シナリオ)】
第11話「犯人は一体誰?」
〇ユリシーズ王太子後宮 リリアン私室(昼)
ローズマリー「……そして今回も一晩こってりと絞られ……いえ、事情聴取されたんです」
白でシンプルに纏められたリリアンの部屋で、ローズマリーは項垂れた。テーブルにはお菓子が沢山並べられている。ローズマリーの言葉に、
リリアンは「まあ」
と口に手を当てた。そして眉を下げる。
リリアン「それは大変でしたね……。一度ではなく、二度も……」
ローズマリー「今回もユリシーズ様が解放してくださったんです」
リリアン「ユリシーズ様が?」
ローズマリー「ええ……」
ローズマリーは目の前のティーカップを手に取る。リリアンの侍女が淹れてくれたばかりの紅茶は、湯気がたっていた。
リリアン「でも、そこまでユリシーズ様に助けていただけるのは、きっとユリシーズ様に大事にされているのですよ」
ローズマリー「……そう、なんですか?」
リリアンもティーカップを両手で持ち、ニッコリと花が咲くように微笑んだ。
リリアン「ええ。こんなに大事(おおごと)になってもお咎めがないのは、ユリシーズ様に好かれている他にないです」
ローズマリー「あ……」
ローズマリーは戸惑ったように目を伏せた。
ローズマリー(ユリシーズ様が幼馴染だから可愛がってくださってると思うのだけれど、好かれているのとはまた違う気がするわ……)
そんなローズマリーの様子をリリアンは心配そうに見つめる。
リリアン「ローズマリー様……、そんなに気落ちなさらないで。ローズマリー様は悪くないのですし……」
ローズマリーはギュッとティーカップを握る。
ローズマリー「でも、……私がお菓子を作らなければ、こんな事にはならなかったのに……」
沈んだ声と曇った顔をしたローズマリーに、リリアンも痛ましげな表情を浮かべた。
リリアン「そんな事ないです……。ローズマリー様がせっかく作ったお菓子なのに……。本当に何故毒事件なんか起こるのでしょう……」
ローズマリー「しばらく作らない方がいいのではないかと思うんです……」
リリアン「そんな……」
ローズマリーの後ろ向きな言葉に、リリアンは少しだけ目を見開いた。ローズマリーが落ち込んでいるのは、誰の目から見ても明らか。リリアンはティーカップから手を離すと、テーブルの上に置かれているお菓子の1つを細い指で摘む。小さなバタークッキーを見せられて、ローズマリーは目を瞬かせた。以前にローズマリーが作ったようなバタークッキーに、紅茶の茶葉が練り込まれている。
リリアン「この小さなバタークッキーを作るのだって、クッキーを作った人だけの労力ではないのです。材料を作った人の労力だって掛かっているのです。……つまり、毒を入れた犯人は、皆様の労力を台無しにしているということです」
ローズマリー「リリアン様……」
ローズマリーはバタークッキーを作る時に使った材料を思い出す。小麦粉に砂糖、卵、バター。
ローズマリー(そうよね……。あの材料を作った人だっているのに……)
リリアン「それに、今はローズマリー様が表立って標的になっていると分かりますが、わたしだって標的になっているかもしれません」
ローズマリー「えっ」
顔を上げたローズマリー。リリアンは複雑そうに口を開く。
リリアン「側室を蹴落としたいと思うのならば、わたしも含まれていると思います」
リリアンの言葉にローズマリーはハッと目を見開いた。
ローズマリー(側室は私を含めて7人もいるんだもの……。側室の多数が標的になっていてもおかしくないわ……)
リリアン「だから、ローズマリー様は気になさらないで。今度わたしにもローズマリー様が作ったお菓子をください」
リリアンはローズマリーに聖母のような微笑み向けた。ローズマリーは、頷く。
ローズマリー「はい……!ありがとうございます」
ローズマリーの言葉にリリアンは頷いて、ティーカップに口を付ける。ローズマリーもティーカップのお茶を飲み干した。
リリアン「ああそれと、ローズマリー様にお伝えすることがあります」
ローズマリー「なんですか?」
リリアン「後宮から出られる方法、一つだけあります」
リリアンが人差し指を立てた。
ローズマリー「一つだけ?」
ローズマリーは首を傾げる。
リリアン「実力行使ですよ。ローズマリー様。一回、後宮の外に出てわたしのお家に身を寄せてしまえばいいのです」
リリアンは一拍、息を吸って告げる。
リリアン「王太子妃が側室から選ばれる制度を逆手に取ればいいのです」
ローズマリー「……あ!」
ローズマリーは目を見開いて口元に手を当てる。
ローズマリー(王太子妃が選ばれるのは後宮の側室から。それならば、後宮から出てしまった側室は王太子妃になる資格を失ってしまう……。それより、後宮から出たら側室としての素質も問われるわ)
その事に気付いて、ローズマリーは目を伏せる。
ローズマリー(私の名誉が落ちてしまう代わりに――、側室を辞められる)
ローズマリーの迷いを感じ取ったのか、リリアンは慌てて説明した。
リリアン「ローズマリー様は公爵家の方ですし……、側室を出られたと言っても、後宮に入られた経緯を皆が知っております。だから、縁談や名誉が落ちることはそんなにないと思うのです」
ローズマリー「確かに……、家族がみんないなくなってしまったから、国王様達のご厚意で後宮に入ったけれど……」
ローズマリー(気心の知れたユリシーズ様が近くにいた方がいいだろうと)
ローズマリー(でも、ユリシーズ様は公務等で以前より疎遠になってしまっているのだし……、ケイシー様との子供もいる)
ローズマリー(じゃあ、私はもう出てしまっても良いんじゃないの?)
ローズマリーのティーカップに掛けたままの手に少しだけ力が篭もる。だけれど顔をあげ、笑みを浮かべた。
ローズマリー「ありがとうございます。リリアン様。お願いします」
ローズマリーにリリアンは優しげに微笑み返す。
リリアン「かしこまりました。ローズマリー様は特別な方法で入ったのですから、きっと大丈夫ですよ」
ローズマリーの脳裏に、ケイシーの姿が過ぎる。
ローズマリー(これでいい、はずだわ)
〇ユリシーズ王太子後宮 ローズマリー私室(昼)
カリスタ「……本当に良かったんですか?リリアン様に後宮出たいなんて頼んで」
心配そうにカリスタはローズマリーを伺う。
ローズマリー「国王様もユリシーズ様も出してくれないのよ。リリアン様の手を借りるしかないわ」
ローズマリーは眉を寄せて言い切った。
ローズマリー「それより、毒事件よ。今回、女官長はその場に居合わせなかったわ。その代わり女騎士が居合わせた……」
ケーキはユリシーズに派遣された女騎士が運んで行った。その役を選んだのは完全にランダム。
カリスタ「……そうなります」
ローズマリー「わ、私の犯人説が高まったという事ね……!」
ローズマリーは頭を抱えた。
カリスタ「ロ、ローズマリー様はやってないって分かってますから……!!ええ……きっと!!」
カリスタは言葉に突っかかりながらも拳を握る。その手は震えていた。
ローズマリー「なんでそんな曖昧になっているのよ!」
カリスタ「冗談です」
ローズマリー「もう……」
ローズマリーは脱力したようにソファーに倒れ込む。そして、天井をぼんやりと見上げる。
ローズマリー「……ユリシーズ様が今回も無事で良かったけれど、ケーキは調査に回されて棄てられちゃったのよね……」
ブラッドに手伝ってもらった。……というか、半分くらいブラッドに手伝ってもらっていたが、ローズマリーだって作ったのだ。不格好だったけれど、生クリームだって塗った。
〇9話ユリシーズの台詞
ユリシーズ「また、ローズマリーのお菓子、食べさせてね」
〇回想終了
ローズマリー(ユリシーズ様の為に作ったのに……)
ケーキがゴミ箱に捨てられるイメージが浮かぶ。時間をかけて作ったのに。
ローズマリー(せっかく、作ったのに……)
片手で目元を覆う。
ローズマリー(最初は口実だった。ユリシーズ様の後宮から抜け出す為の)
ローズマリー(でも――、誰かの為に作ったお菓子が、その誰かに届かない事がこんなにも辛くて、悔しいなんて……)
そして、ローズマリーは指の隙間から天井を睨んだ。
ローズマリー(誰だか知らないけれど、許せないわ……)
ローズマリーは気を引き締めるように息を吐いた。
そのタイミングで、ローズマリーの私室に騎士が訪れる。カリスタが声を上げた。
カリスタ「ローズマリー様!ユリシーズ様のお見舞いの許可が下りましたよ!」
ローズマリー「本当?!」
ローズマリー「……そして今回も一晩こってりと絞られ……いえ、事情聴取されたんです」
白でシンプルに纏められたリリアンの部屋で、ローズマリーは項垂れた。テーブルにはお菓子が沢山並べられている。ローズマリーの言葉に、
リリアンは「まあ」
と口に手を当てた。そして眉を下げる。
リリアン「それは大変でしたね……。一度ではなく、二度も……」
ローズマリー「今回もユリシーズ様が解放してくださったんです」
リリアン「ユリシーズ様が?」
ローズマリー「ええ……」
ローズマリーは目の前のティーカップを手に取る。リリアンの侍女が淹れてくれたばかりの紅茶は、湯気がたっていた。
リリアン「でも、そこまでユリシーズ様に助けていただけるのは、きっとユリシーズ様に大事にされているのですよ」
ローズマリー「……そう、なんですか?」
リリアンもティーカップを両手で持ち、ニッコリと花が咲くように微笑んだ。
リリアン「ええ。こんなに大事(おおごと)になってもお咎めがないのは、ユリシーズ様に好かれている他にないです」
ローズマリー「あ……」
ローズマリーは戸惑ったように目を伏せた。
ローズマリー(ユリシーズ様が幼馴染だから可愛がってくださってると思うのだけれど、好かれているのとはまた違う気がするわ……)
そんなローズマリーの様子をリリアンは心配そうに見つめる。
リリアン「ローズマリー様……、そんなに気落ちなさらないで。ローズマリー様は悪くないのですし……」
ローズマリーはギュッとティーカップを握る。
ローズマリー「でも、……私がお菓子を作らなければ、こんな事にはならなかったのに……」
沈んだ声と曇った顔をしたローズマリーに、リリアンも痛ましげな表情を浮かべた。
リリアン「そんな事ないです……。ローズマリー様がせっかく作ったお菓子なのに……。本当に何故毒事件なんか起こるのでしょう……」
ローズマリー「しばらく作らない方がいいのではないかと思うんです……」
リリアン「そんな……」
ローズマリーの後ろ向きな言葉に、リリアンは少しだけ目を見開いた。ローズマリーが落ち込んでいるのは、誰の目から見ても明らか。リリアンはティーカップから手を離すと、テーブルの上に置かれているお菓子の1つを細い指で摘む。小さなバタークッキーを見せられて、ローズマリーは目を瞬かせた。以前にローズマリーが作ったようなバタークッキーに、紅茶の茶葉が練り込まれている。
リリアン「この小さなバタークッキーを作るのだって、クッキーを作った人だけの労力ではないのです。材料を作った人の労力だって掛かっているのです。……つまり、毒を入れた犯人は、皆様の労力を台無しにしているということです」
ローズマリー「リリアン様……」
ローズマリーはバタークッキーを作る時に使った材料を思い出す。小麦粉に砂糖、卵、バター。
ローズマリー(そうよね……。あの材料を作った人だっているのに……)
リリアン「それに、今はローズマリー様が表立って標的になっていると分かりますが、わたしだって標的になっているかもしれません」
ローズマリー「えっ」
顔を上げたローズマリー。リリアンは複雑そうに口を開く。
リリアン「側室を蹴落としたいと思うのならば、わたしも含まれていると思います」
リリアンの言葉にローズマリーはハッと目を見開いた。
ローズマリー(側室は私を含めて7人もいるんだもの……。側室の多数が標的になっていてもおかしくないわ……)
リリアン「だから、ローズマリー様は気になさらないで。今度わたしにもローズマリー様が作ったお菓子をください」
リリアンはローズマリーに聖母のような微笑み向けた。ローズマリーは、頷く。
ローズマリー「はい……!ありがとうございます」
ローズマリーの言葉にリリアンは頷いて、ティーカップに口を付ける。ローズマリーもティーカップのお茶を飲み干した。
リリアン「ああそれと、ローズマリー様にお伝えすることがあります」
ローズマリー「なんですか?」
リリアン「後宮から出られる方法、一つだけあります」
リリアンが人差し指を立てた。
ローズマリー「一つだけ?」
ローズマリーは首を傾げる。
リリアン「実力行使ですよ。ローズマリー様。一回、後宮の外に出てわたしのお家に身を寄せてしまえばいいのです」
リリアンは一拍、息を吸って告げる。
リリアン「王太子妃が側室から選ばれる制度を逆手に取ればいいのです」
ローズマリー「……あ!」
ローズマリーは目を見開いて口元に手を当てる。
ローズマリー(王太子妃が選ばれるのは後宮の側室から。それならば、後宮から出てしまった側室は王太子妃になる資格を失ってしまう……。それより、後宮から出たら側室としての素質も問われるわ)
その事に気付いて、ローズマリーは目を伏せる。
ローズマリー(私の名誉が落ちてしまう代わりに――、側室を辞められる)
ローズマリーの迷いを感じ取ったのか、リリアンは慌てて説明した。
リリアン「ローズマリー様は公爵家の方ですし……、側室を出られたと言っても、後宮に入られた経緯を皆が知っております。だから、縁談や名誉が落ちることはそんなにないと思うのです」
ローズマリー「確かに……、家族がみんないなくなってしまったから、国王様達のご厚意で後宮に入ったけれど……」
ローズマリー(気心の知れたユリシーズ様が近くにいた方がいいだろうと)
ローズマリー(でも、ユリシーズ様は公務等で以前より疎遠になってしまっているのだし……、ケイシー様との子供もいる)
ローズマリー(じゃあ、私はもう出てしまっても良いんじゃないの?)
ローズマリーのティーカップに掛けたままの手に少しだけ力が篭もる。だけれど顔をあげ、笑みを浮かべた。
ローズマリー「ありがとうございます。リリアン様。お願いします」
ローズマリーにリリアンは優しげに微笑み返す。
リリアン「かしこまりました。ローズマリー様は特別な方法で入ったのですから、きっと大丈夫ですよ」
ローズマリーの脳裏に、ケイシーの姿が過ぎる。
ローズマリー(これでいい、はずだわ)
〇ユリシーズ王太子後宮 ローズマリー私室(昼)
カリスタ「……本当に良かったんですか?リリアン様に後宮出たいなんて頼んで」
心配そうにカリスタはローズマリーを伺う。
ローズマリー「国王様もユリシーズ様も出してくれないのよ。リリアン様の手を借りるしかないわ」
ローズマリーは眉を寄せて言い切った。
ローズマリー「それより、毒事件よ。今回、女官長はその場に居合わせなかったわ。その代わり女騎士が居合わせた……」
ケーキはユリシーズに派遣された女騎士が運んで行った。その役を選んだのは完全にランダム。
カリスタ「……そうなります」
ローズマリー「わ、私の犯人説が高まったという事ね……!」
ローズマリーは頭を抱えた。
カリスタ「ロ、ローズマリー様はやってないって分かってますから……!!ええ……きっと!!」
カリスタは言葉に突っかかりながらも拳を握る。その手は震えていた。
ローズマリー「なんでそんな曖昧になっているのよ!」
カリスタ「冗談です」
ローズマリー「もう……」
ローズマリーは脱力したようにソファーに倒れ込む。そして、天井をぼんやりと見上げる。
ローズマリー「……ユリシーズ様が今回も無事で良かったけれど、ケーキは調査に回されて棄てられちゃったのよね……」
ブラッドに手伝ってもらった。……というか、半分くらいブラッドに手伝ってもらっていたが、ローズマリーだって作ったのだ。不格好だったけれど、生クリームだって塗った。
〇9話ユリシーズの台詞
ユリシーズ「また、ローズマリーのお菓子、食べさせてね」
〇回想終了
ローズマリー(ユリシーズ様の為に作ったのに……)
ケーキがゴミ箱に捨てられるイメージが浮かぶ。時間をかけて作ったのに。
ローズマリー(せっかく、作ったのに……)
片手で目元を覆う。
ローズマリー(最初は口実だった。ユリシーズ様の後宮から抜け出す為の)
ローズマリー(でも――、誰かの為に作ったお菓子が、その誰かに届かない事がこんなにも辛くて、悔しいなんて……)
そして、ローズマリーは指の隙間から天井を睨んだ。
ローズマリー(誰だか知らないけれど、許せないわ……)
ローズマリーは気を引き締めるように息を吐いた。
そのタイミングで、ローズマリーの私室に騎士が訪れる。カリスタが声を上げた。
カリスタ「ローズマリー様!ユリシーズ様のお見舞いの許可が下りましたよ!」
ローズマリー「本当?!」