私、愛しの王太子様の側室辞めたいんです!【完(シナリオ)】
第13話「ユリシーズ様の特別は」
〇場面 ユリシーズ王太子後宮 中庭
花が沢山咲き乱れる中庭。
ローズマリーは椅子に腰掛けていた。モルガナイト鉱石の色をした大きな瞳を沈んだように伏せる。
ローズマリー(色んな人に心配を掛けてしまっているわ……)
ローズマリー(ユリシーズ様は勿論、ブラッドにリリアン様……。ケイシー様にも……)
人が近寄ってきた気配を感じでローズマリーは立ち上がる。同時に先ほどの憂い顔を笑顔に切り替えた。
ローズマリー「突然呼んでしまって申し訳ありません。……ケイシー様」
俯き気味にケイシーは現れる。黒髪が顔を少し隠すかのよう。紅色の瞳は困惑したように少しだけ揺れていた。
ケイシー「……だ、大丈夫です……」
おどおどと震えるケイシーは、ギュッと両手を握り締める。その様子に、ローズマリーは思わず眉を寄せた。ケイシーに席を勧める。
ケイシーが座り、ローズマリーも向かいの椅子に腰を下ろした。
ローズマリー「やはり体調が悪いのですか?」
ケイシー「い、いいえ……。体調が悪いことはなくて……」
ケイシーは不安そうな顔のまま、続けた。
ケイシー「最近、物騒な事が続いているので……。毒に耐性があるとは言え、ユリシーズさまが大丈夫か、わたくし気がかりで……」
ローズマリーは手に持っていたカップに少しだけ力を込めた。
ローズマリー「……っ、申し訳ございません。……ケイシー様にご心配をおかけしてしまって」
頭を下げたローズマリーに、ケイシーは慌てたように手を横に振る。
ケイシー「ち、違うんです……!……ローズマリーさまの事を疑っているわけでは……!」
ローズマリーは恐る恐る顔を上げる。焦ったようにローズマリーをフォローして、ケイシーは目を伏せた。テーブルの上で指を弄ぶような仕草を見せる。やや躊躇ったような、自信なさげにケイシーは口を開いた。
ケイシー「今はユリシーズさまの生死に関わるような毒ではありませんが……、連続しているのでこのまま悪化してしまうのではないか……と思」
ケイシーが不自然な所で言葉を止める。
ローズマリーとケイシーが同時に人の気配を感じて、そちらの方を向いた。
燃えるような赤色の長髪、やや釣りがちの瞳は緑色の女性。ローズマリーもケイシーもよく知る人だった。
ローズマリー(……最年長の第5側室様?!どこから話を聞かれていたの……?!)
血の気が引くローズマリー。ケイシーも言葉にならず、口をはくはくと僅かに動かすだけ。声は出てこない。
そんな2人に構うことなく、第3側室は切羽詰まった険しい表現で詰め寄る。
第5側室(マルキア)「ちょっと、今聞き捨てならない言葉が聞こえたのだけれど、
――毒ってどういう事なのかしら?」
第5側室はローズマリーよりも、まず先にケイシーの方に詰め寄った。
ユリシーズの生死に関わる毒ではない、と言ったケイシーへ。
ケイシーもローズマリーと同様に顔から血の気が引いていた。唇を動かしても、声にならない。
一足先に持ち直したローズマリーが、間に入るように第3側室の肩に手を置いた。
ローズマリー「……マルキア様。落ち着いてください」
第5側室(マルキア)「でも……」
ローズマリー「マルキア様」
第5側室の名前を呼ぶ。流石に歴の長いローズマリーには逆らえないのか、第5側室は不満タラタラの顔でケイシーから一歩下がる。
第5側室(マルキア)「……失礼致しました。ローズマリー様。……しかし、ユリシーズが害されているという事はどういう意味でしょうか?」
やや釣りがちの瞳を更に釣り上げる。見た目を裏切らず、第3側室はかなり苛烈だ。
そして――、
ローズマリー(すごく噂好きというか、口が軽い……のよね……)
かなり性格的に癖があった。
ローズマリー「……別に大したことでは……。王族の方々には毒の耐性があるって言うことをお話していたのだけれど、ケイシー様がちょっと大きく捉えてしまわれて……」
冷や汗ダラダラの中ローズマリーは必死に言い訳をする。
ローズマリー(こ、この人に知られてしまったら、明日にはユリシーズ様、毒殺事件が後宮中に広まってしまうわ……!!)
第5側室はローズマリーの説得に微妙な顔を見せる。
第5側室「……本当ですか?何故わざわざそのお話をなさるのです?」
ローズマリー(で、ですよね……!!)
ローズマリー「ほ、ほら、ケイシー様はまだここに来られてまだ日が浅いので……」
第5側室「……そうですか」
全然納得していない表情で、第5側室はひとまず引き下がった。やや心の中で安堵しながら、ローズマリーは畳み掛ける。
ローズマリー「まず、第一にユリシーズ様に大事があったら、今頃この後宮は大騒ぎですよ」
第5側室「それもそう…ですね」
渋々、といった体で第5側室は引き下がった。
邪魔をした、といった趣旨の非礼を詫びる文言と共に。彼女が完全に去っていくのを確認してから、ローズマリーは小さく息を吐いた。
振り返ると、ケイシーも安堵の息をつく。
ローズマリー(それにしても……、)
胸に手を当てるケイシーを、ローズマリーはさりげなく見つめる。
ローズマリー(リリアン様は『毒事件の事を知っている者は知っている』と仰っていた……)
ローズマリー(……やっぱり、ユリシーズ様の御子がいるケイシー様は、一連の毒事件を知っていた)
そして、第5側室は知らなかった。
第5側室の口が軽いという事はあっただろう。だが、側室の序列と歴年数で言うと、第7側室のケイシーが第5側室でも知らない事を知っている訳がないのだ。
ローズマリーは考え込むようにさりげなく口元に手を当てる。
ローズマリー(リリアン様はご実家が侯爵家だから、その伝手を使っている可能性が高いのだけれど……、ケイシー様は男爵家……)
導き出される答えは、一つしかない。さっきと同じ答えにしかならなかった。
ローズマリーは考えるのを辞めた。口元から手を離して、緩く笑みを浮かべる。
ローズマリー(やっぱり、特別扱い……)
ローズマリー「ケイシー様、顔色が悪いです。お身体に障るので、そろそろお開きにしませんか?」
花が沢山咲き乱れる中庭。
ローズマリーは椅子に腰掛けていた。モルガナイト鉱石の色をした大きな瞳を沈んだように伏せる。
ローズマリー(色んな人に心配を掛けてしまっているわ……)
ローズマリー(ユリシーズ様は勿論、ブラッドにリリアン様……。ケイシー様にも……)
人が近寄ってきた気配を感じでローズマリーは立ち上がる。同時に先ほどの憂い顔を笑顔に切り替えた。
ローズマリー「突然呼んでしまって申し訳ありません。……ケイシー様」
俯き気味にケイシーは現れる。黒髪が顔を少し隠すかのよう。紅色の瞳は困惑したように少しだけ揺れていた。
ケイシー「……だ、大丈夫です……」
おどおどと震えるケイシーは、ギュッと両手を握り締める。その様子に、ローズマリーは思わず眉を寄せた。ケイシーに席を勧める。
ケイシーが座り、ローズマリーも向かいの椅子に腰を下ろした。
ローズマリー「やはり体調が悪いのですか?」
ケイシー「い、いいえ……。体調が悪いことはなくて……」
ケイシーは不安そうな顔のまま、続けた。
ケイシー「最近、物騒な事が続いているので……。毒に耐性があるとは言え、ユリシーズさまが大丈夫か、わたくし気がかりで……」
ローズマリーは手に持っていたカップに少しだけ力を込めた。
ローズマリー「……っ、申し訳ございません。……ケイシー様にご心配をおかけしてしまって」
頭を下げたローズマリーに、ケイシーは慌てたように手を横に振る。
ケイシー「ち、違うんです……!……ローズマリーさまの事を疑っているわけでは……!」
ローズマリーは恐る恐る顔を上げる。焦ったようにローズマリーをフォローして、ケイシーは目を伏せた。テーブルの上で指を弄ぶような仕草を見せる。やや躊躇ったような、自信なさげにケイシーは口を開いた。
ケイシー「今はユリシーズさまの生死に関わるような毒ではありませんが……、連続しているのでこのまま悪化してしまうのではないか……と思」
ケイシーが不自然な所で言葉を止める。
ローズマリーとケイシーが同時に人の気配を感じて、そちらの方を向いた。
燃えるような赤色の長髪、やや釣りがちの瞳は緑色の女性。ローズマリーもケイシーもよく知る人だった。
ローズマリー(……最年長の第5側室様?!どこから話を聞かれていたの……?!)
血の気が引くローズマリー。ケイシーも言葉にならず、口をはくはくと僅かに動かすだけ。声は出てこない。
そんな2人に構うことなく、第3側室は切羽詰まった険しい表現で詰め寄る。
第5側室(マルキア)「ちょっと、今聞き捨てならない言葉が聞こえたのだけれど、
――毒ってどういう事なのかしら?」
第5側室はローズマリーよりも、まず先にケイシーの方に詰め寄った。
ユリシーズの生死に関わる毒ではない、と言ったケイシーへ。
ケイシーもローズマリーと同様に顔から血の気が引いていた。唇を動かしても、声にならない。
一足先に持ち直したローズマリーが、間に入るように第3側室の肩に手を置いた。
ローズマリー「……マルキア様。落ち着いてください」
第5側室(マルキア)「でも……」
ローズマリー「マルキア様」
第5側室の名前を呼ぶ。流石に歴の長いローズマリーには逆らえないのか、第5側室は不満タラタラの顔でケイシーから一歩下がる。
第5側室(マルキア)「……失礼致しました。ローズマリー様。……しかし、ユリシーズが害されているという事はどういう意味でしょうか?」
やや釣りがちの瞳を更に釣り上げる。見た目を裏切らず、第3側室はかなり苛烈だ。
そして――、
ローズマリー(すごく噂好きというか、口が軽い……のよね……)
かなり性格的に癖があった。
ローズマリー「……別に大したことでは……。王族の方々には毒の耐性があるって言うことをお話していたのだけれど、ケイシー様がちょっと大きく捉えてしまわれて……」
冷や汗ダラダラの中ローズマリーは必死に言い訳をする。
ローズマリー(こ、この人に知られてしまったら、明日にはユリシーズ様、毒殺事件が後宮中に広まってしまうわ……!!)
第5側室はローズマリーの説得に微妙な顔を見せる。
第5側室「……本当ですか?何故わざわざそのお話をなさるのです?」
ローズマリー(で、ですよね……!!)
ローズマリー「ほ、ほら、ケイシー様はまだここに来られてまだ日が浅いので……」
第5側室「……そうですか」
全然納得していない表情で、第5側室はひとまず引き下がった。やや心の中で安堵しながら、ローズマリーは畳み掛ける。
ローズマリー「まず、第一にユリシーズ様に大事があったら、今頃この後宮は大騒ぎですよ」
第5側室「それもそう…ですね」
渋々、といった体で第5側室は引き下がった。
邪魔をした、といった趣旨の非礼を詫びる文言と共に。彼女が完全に去っていくのを確認してから、ローズマリーは小さく息を吐いた。
振り返ると、ケイシーも安堵の息をつく。
ローズマリー(それにしても……、)
胸に手を当てるケイシーを、ローズマリーはさりげなく見つめる。
ローズマリー(リリアン様は『毒事件の事を知っている者は知っている』と仰っていた……)
ローズマリー(……やっぱり、ユリシーズ様の御子がいるケイシー様は、一連の毒事件を知っていた)
そして、第5側室は知らなかった。
第5側室の口が軽いという事はあっただろう。だが、側室の序列と歴年数で言うと、第7側室のケイシーが第5側室でも知らない事を知っている訳がないのだ。
ローズマリーは考え込むようにさりげなく口元に手を当てる。
ローズマリー(リリアン様はご実家が侯爵家だから、その伝手を使っている可能性が高いのだけれど……、ケイシー様は男爵家……)
導き出される答えは、一つしかない。さっきと同じ答えにしかならなかった。
ローズマリーは考えるのを辞めた。口元から手を離して、緩く笑みを浮かべる。
ローズマリー(やっぱり、特別扱い……)
ローズマリー「ケイシー様、顔色が悪いです。お身体に障るので、そろそろお開きにしませんか?」