私、愛しの王太子様の側室辞めたいんです!【完(シナリオ)】
第17話「そして始まっていた犯人捜し」
〇王城 ユリシーズ執務室
ユリシーズの執務室にローズマリーとカリスタが到着すると、既にユリシーズ、女官長、ブラッドと騎士数名が集まっていた。
女官長は相変わらずのキツい目でローズマリーを見る。女官長と目が合ったローズマリーは、気まずそうに目を逸らした。
ブラッドは集まった人間を順に見た後、考えるように顎に手を当ててポツリと呟いた。
ブラッド「これは……」
ユリシーズ「ブラッド。おそらく君の予想は正しいよ。一連の毒の事件の関係者に集まってもらったんだ」
ブラッド「では、この中に犯人が……」
ユリシーズ「そうだよ」
ユリシーズは目を細めて静かに告げた。そして、あっさりと犯人――カリスタの方へと向く。
ユリシーズ「犯人はカリスタだ」
一瞬の間がその場を支配した。全員がユリシーズに倣ってカリスタの方へと向く。
ローズマリー「……え」
ローズマリー「えええええ?!?!」
一番早く大きなリアクションをしたローズマリーは、ユリシーズとカリスタをキョロキョロと見比べる。
ローズマリー「えっ、待って、えっ?カリスタが?」
ユリシーズ「そうだよ」
ユリシーズはローズマリーの横に立つ。
ユリシーズ「皆には伏せていて悪かったけれど……、部屋の捜索と四六時中の監視をさせてもらったよ。事が事だからね。完全な野放しは出来ない。勿論、騎士は同性同士だからそこは安心して欲しい」
ローズマリー「監視……」
チラリ、とローズマリーは壁際に並んでいた騎士を見る。ローズマリー達に付いていた顔ぶれもちらほらと居た。
ユリシーズ「……まあ、その他にも付けていたんだけれど」
ローズマリー「他にも?」
ユリシーズはにっこりとローズマリーに向かって微笑んだ。
ローズマリー(言う気ないのね……)
ローズマリーは半眼で呆れた笑みを返した。
ユリシーズ「監視を付けた所、カリスタが他の側室の侍女と頻繁に連絡を取っていた事が分かった。そして、さっき知ったのだけれど、ありもしない〝閨の儀〟の話をして、ローズマリーの不安を煽っていたようだね」
カリスタはしばしの間呆然としていたが、やや震えた声で慌てて反論する。
カリスタ「わ、私は……、ケイシー様から聞いただけです。そのままローズマリー様にお話しただけですよ。それに、他の側室の侍女と連絡を取る事だって、そんなにおかしい事じゃありません。後宮内の情報共有ですよ。ローズマリー様は一番目の御側室様ですから、常に新しい情報を仕入れておかないと」
やや早口だったが、ユリシーズは落ち着いた声で続ける。
ユリシーズ「それだけで僕は犯人だなんて決めつけないよ。毒が付着した薬包紙が焼却炉に廃棄されているのが見つかったんだ。あとは誰が捨てたのか地道な調査だね」
カリスタ「な……、そんな……」
カリスタは目を見開いて愕然とした表情を浮かべた。
ユリシーズ「訓練された人間は、時々監視の目をもくぐり抜ける。最初に複数人いた時に僕に毒を盛れた時点で、それなりの手練れだろうとは推測していた。でも廃棄方法は素人で、中々城内から出られない人間。普段は暗殺とかを生業にしているわけではないが、毒を盛る機会をずっと狙っていたと言った方がいいか」
ユリシーズは小さく息を切った。
ユリシーズ「状況的に最初は女官長が一番疑われる立場だったけれど、逆に状況が整いすぎてる上に、彼女だったら別にわざわざあのタイミングでなくとも、僕とローズマリー幼い頃から関わりがあったから、害する機会は幾らでもあったんだよ。だから、女官長には2回目は現場不在証明をしてもらった」
カリスタ「それならブラッドだって……!」
ユリシーズ「そうだね。ブラッドは〝たまたま〟ローズマリーがお菓子作りをしたいと言い出しただけだったから、犯人の線も薄いだろうとは思っていた。それに彼は城の製菓長だ。部下も多い中、王城のスイーツ内に毒を盛ることだって容易い。わざわざローズマリーのいる時でなくても機会は充分にある」
カリスタは最後の犯人候補だったローズマリーへと向く。が、目が合った瞬間、気まずげに目を逸らした。
苦い顔を浮かべて、ユリシーズは俯いたカリスタがローズマリーについて何も言わなかった気持ちを代弁した。
ユリシーズ「流石に長年ローズマリー付きをやっている君なら分かるよね。ローズマリーは分かりやすすぎて、企みごとは出来ないタイプだって」
そして小さく
ユリシーズ「連れて行け」
と騎士達に命令する。
ローズマリー「あ……」
ローズマリーは引き止めようと手を伸ばした。しかし、途中で迷うように引っ込める。中途半端に伸ばしかけた手をユリシーズがそっと握り込んだ。
連行されていくカリスタを止められないまま、ローズマリーは見送った。繋がれたユリシーズの手をクイッと引く。
ローズマリー「カリスタが……、そんな、」
顔を青くしたローズマリーに、ユリシーズは心配そうな表情で目線を合わせる為に屈んだ。
ユリシーズ「ひとまずは取調べだよ。そんな急に処罰は出さない」
ローズマリー「でも」
とローズマリーはなおも引っかかったように、続ける。

(回想 6話)

カリスタ「私はローズマリー様が疑われるのが許せません!ローズマリー様は何もしていないのに!!」
憤るカリスタは、拳を握り締める。

カリスタ「絶っっ対、犯人は女官長ですよ!前々からローズマリー様にネチネチネチネチ嫌味言ってましたもん!ローズマリー様に罪をなすりつけて、後宮から追い出すつもりです!」
目尻を人差し指で吊り上げて、女官長の真似をするカリスタ。意外と似ていて、ローズマリーは思わずクスクスと声を出して笑った。
ローズマリー「カリスタ、似すぎよ。……確かに女官長は意地悪だけど……」

(回想終了)

ローズマリー「カリスタが毒を入れたのも、ケイシー様が嘘をついたのも、信じられない……」
やや俯きがちでローズマリーは呟いた。
ユリシーズ「毒の件は関係者と一部の人間しか知らない。でもケイシー嬢は知っていたんだろう?」
ローズマリー「ええ……、ユリシーズ様の事を心配なさってたわ……」
ユリシーズ「ローズマリーが第5側室のマルキア嬢にうっかり漏らしてしまったとしても、それよりも先に知っていたケイシー嬢は不自然だ。どこかから情報が漏れているんだろうね」
ローズマリーは考え込むように口元に手を当てた。
ローズマリー「そうね……私はてっきり……」
ユリシーズ「てっきり?」
ローズマリー「ケイシー様がユリシーズ様の御子様を妊娠されてるって思っていたから、部外者じゃないと思っていたのよ……」
ユリシーズ「そういう事か……。結局妊娠自体が偽りだったよ」
ローズマリー(……あれ?じゃあ、あのお方はなぜ知って……)
ユリシーズは繋いでいたローズマリーの手の甲を、親指の腹でスリスリと撫でた。
ユリシーズ「次からはなにか大事な事を言われたら、真っ先に僕に言うこと」
ローズマリー「ええ……、ごめんなさい」
ユリシーズ「今回は許すけど――」
殊勝な態度で頷いたローズマリーにユリシーズはニコニコと微笑んだ。圧のある笑みで。
ユリシーズ「次からは怒るからね」
ローズマリー「はい……」
ユリシーズは小さく息をついて、ボヤくように呟く。
ユリシーズ「全く、すぐ人を信じちゃうんだから……。あと」
ユリシーズはローズマリーの頬をムニムニと摘んだ。そして、ずいっと顔を近づけて黒い笑みを浮かべる。
ユリシーズ「まだ僕に言ってないこと、あるよね?」
ローズマリー「ん゛?!」
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