羽をくれた君へ
真逆の世界の住人
「豚小屋入っとけよ!」
「汗キモいんだよデブ!!」
頭から離れない、クラスメイトの私への罵声。
そう、私は毎日いじめられている。
高校の入学式。ドキドキしながらクラスへ行き、
楽しい学校生活を思い描いていたその扉の向こうは、地獄だった。
その日からすぐに、イジメは始まった。
毎日罵声を浴びせられ、汚いとトイレで水をかけられることもあった。
親には相談できない。こんな恥ずかしい自分知られたくない。
忙しい親はこんな私に気付かない。
でも、もうそんな日々とさようなら。
ここで、私の人生リセットすると決めた。
もうすぐ夏休みが始まる。
学校に行かなくていいからいいじゃないか!
って?いやいや、夏休み終わったらまた始まるこの終わらない日々に、もううんざりだった。
そして私は、まだ日差しの強い夕方の屋上へと足を運んだ。
机の中の遺書を読んで、親はどう思うだろうか。
私が居なくなったら、クラスのみんなはどう思うのか。夏休みもどうなるか。
そんなことをぐるぐる頭で考えながら、
一段高いところへと踏み出す。
目をつぶり、鼻から息を吸った。
「あ!やべっ!!」
誰も居ないと思っていた私は驚いて勢いよく振り向いた。しかし、バランスを崩し1段下へ尻餅をついた。
「あーあ。」
ため息混じりに声を漏らし立っていたのは知らない顔だった。
だか、これはどう見ても世に言うイケメンだ。
髪の毛は少し茶色で長めの、毛先遊ばせちゃってる系。目もぱっちり二重で鼻も高く色白だ。
この雰囲気、リア充感溢れる感じ、
一目で苦手と判断した私は、
「来ないで!止めても無駄なので!」
と強気に威嚇してみた。
彼は後ろを振り向いた後、
「え?俺?」
と自分を指差し、まん丸い目で不思議そうに言う。
「あなた以外に誰がいるんですか?!ふざけないでください。」
からかっているんだこの人。
もう人生を捨てると決めた私はびっくりするほど苦手な相手に敵意むき出しで、言い放っていた。
「え。まぢか」
と言いながら、私の威嚇に動じることなく近づいてくる。
「来ないでって言ってるでしょ!これ以上近づいたらすぐに飛び降りるから!!」
すると彼は立ち止まり、困った顔で
「いや、それ。お尻の下」
と私のお尻の方を指差した。
目線を落とすと、何か踏んでいることに気がついた。
「返してもらっていいかなー、それ。」
彼が手を差し出す。
慌ててお尻をどけて、お尻の下でしゅわになった紙を手渡した。
チラッと見えたその紙には、
from まり
と書かれていた。瞬時にラブレターだと理解して更に腹が立ってきた。
彼の学校生活はきっと私なんかと違ってバラ色なんだと。これはただのひがみだ。そんなことは分かっていた。
「用が済んだらとっとと行ってください。」
と私が言うと、
「ってか、俺の方が先にここに居たんだけど、あんたが後からきて、それはないんじゃない?
ここ俺のお気に入りの場所なの、死ぬなら他でやってよ。迷惑。」
と、ムッとした表情とキツい口調に少したじろいでしまう。
そして、何も言えなくなってしまった。
しかし、ここでリセットすると決めたのは、
クラスメイト、先生への当てつけだ。
それも目的の一つだ。譲れない。
グッと拳を握りしめ立ち上がる。
「そんなの私には関係ない!」
言い切った。背中からは何も返って来ない。
居なくなったのかと確認するため振り返ると
また、バランスを崩し倒れた。
目を開けた途端、すらりと綺麗な指が目に入る。
「大丈夫?」
イケメンが手を差し伸べている。
思わず見とれていた自分に気付き、立ち上がろうとしたが、どうやら足をくじいた様で痛くて立てない。自分の情けなさに絶望に浸っていると
「なぁ、なんで死にたいの?死ぬ前に教えて」
とイケメンがしゃがみこんで聞いてきた。
「あなたみたいなイケメンで、モテて真逆の世界にいる人には分かりませんよ。」
足の痛みと情けなさで、気付いたら目から涙がこぼれ落ちていた。
「真逆の世界ねー、まぁ確かに。
でも俺にだって悩みや後悔はあるよ。」
と彼は優しく涙を拭ってくれた。
私の真逆の世界にいるこのイケメンに
危うくドキドキしてしまった私。
これが、彼との出会いだった。

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