極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~
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「あー兄貴!」
遠慮もせずに俺を見つけて指さし、大声で呼ぶ健太郎に、呆れかえるほかなかった。
「なんだなんだ?」
「あれ、さっき女子がイケメンだって騒いでたおっさん?」
「お前の兄さんなの? 俺らあっちに行ってるから」
誰がおっさんだ。黙れ若造ども。
大学生に毛が生えた程度の、見るからに軽そうな男たちがこっちをじろじろと見ながらも距離を取る。
「お前も行けよ」
温泉は期待していた通りの広さで、いくつも浴槽がある。それぞれに質の違う湯が張られており、俺はバナナの大きな葉が浮いた風呂に浸かっている最中だった。
「いいじゃん。昔はよく一緒に風呂に入っただろ」
薄く筋肉がついただけの脆弱な体で、俺の隣に無遠慮に入ってくる健太郎。
俺はすっと尻を浮かせて距離を取った。
「そう嫌うなよ。俺が偽装結婚を見抜いたからってさ」
「何の話だ」
あれだけ脅してやったのに、なれなれしく話しかけてくる健太郎に腹が立つ。
「よく考えたら俺は困らないんだよ、親父に言われたって。親父はたぶん、俺のサボり癖をとうに知ってるから」
「はあ?」
「だから、兄貴みたいな重要ポストに近づけず、端っこの研究所の放り込んでおいたんだろ。息子がニートだと噂されるよりはいいからさ。全部、親父の思い通りだよ」