極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~
いや別に、何かしたいわけじゃないよ。そうじゃないけど。
優しいのか強引なのか、よくわからない人。
『じゃ、じゃあ』
正直、寝袋よりもふかふかのベッドで眠りたかった。
ただの添い寝よ、添い寝。いつもと一緒。出先だからって、特別なことなんてない。
自分に言い聞かせ、おそるおそる裕ちゃんの隣に潜り込む。
背中を向けると、裕ちゃんの体が密着してきた。完全に、意識的に。
『ちょいちょいちょい!』
何もしないって言ったのに。
後ろからだと、裕ちゃんの手が胸の辺りにきてしまう。うっかり触れてしまいそう。
抗議すると、裕ちゃんは私の身体に腕を巻き付けて、言った。
『くっつくだけ。いいだろ、いつもこうしないと落ち着かないんだ。おやすみ』
後ろ髪を手で避けられたと思うと、うなじにキスされた。
それだけで私の心臓は破裂寸前になってしまい、その後なかなか眠りにつくことができなかった。
というわけで寝不足になり、月曜の今日、しっかり寝坊してしまったのである。
慌てて裕ちゃんに謝罪メールを送る。
仕事中は私用スマホをなかなか見ない人だ。返事は期待できない。
「自分だけのご飯なんて、どうでもいいや……」
ひとりで食べる昼ご飯と同じように、ご飯に納豆をかけただけの、味気ない朝食。
ズルズルと音を立ててそれを食べたら、のっそりと立ち上がって食器を洗う。
私、この生活から離れたら、社会人に戻れる自信がない……。
裕ちゃんがいるときは楽しいけれど、ひとりだと毎日同じことが繰り返されるだけの退屈な生活。
「また歩きにでも行くかー」
自分を励ますように、伸びをした。