極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~

 いや別に、何かしたいわけじゃないよ。そうじゃないけど。

 優しいのか強引なのか、よくわからない人。

『じゃ、じゃあ』

 正直、寝袋よりもふかふかのベッドで眠りたかった。

 ただの添い寝よ、添い寝。いつもと一緒。出先だからって、特別なことなんてない。

 自分に言い聞かせ、おそるおそる裕ちゃんの隣に潜り込む。

 背中を向けると、裕ちゃんの体が密着してきた。完全に、意識的に。

『ちょいちょいちょい!』

 何もしないって言ったのに。

 後ろからだと、裕ちゃんの手が胸の辺りにきてしまう。うっかり触れてしまいそう。

 抗議すると、裕ちゃんは私の身体に腕を巻き付けて、言った。

『くっつくだけ。いいだろ、いつもこうしないと落ち着かないんだ。おやすみ』

 後ろ髪を手で避けられたと思うと、うなじにキスされた。

 それだけで私の心臓は破裂寸前になってしまい、その後なかなか眠りにつくことができなかった。

 というわけで寝不足になり、月曜の今日、しっかり寝坊してしまったのである。

 慌てて裕ちゃんに謝罪メールを送る。

 仕事中は私用スマホをなかなか見ない人だ。返事は期待できない。

「自分だけのご飯なんて、どうでもいいや……」

 ひとりで食べる昼ご飯と同じように、ご飯に納豆をかけただけの、味気ない朝食。

 ズルズルと音を立ててそれを食べたら、のっそりと立ち上がって食器を洗う。

 私、この生活から離れたら、社会人に戻れる自信がない……。

 裕ちゃんがいるときは楽しいけれど、ひとりだと毎日同じことが繰り返されるだけの退屈な生活。

「また歩きにでも行くかー」

 自分を励ますように、伸びをした。


< 115 / 210 >

この作品をシェア

pagetop