極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~

 秘書は皆、食堂か隣のミーティングルームでふたりずつ順番に昼食を摂る。

 私も最初はそこでお弁当を食べようと思ったのだけど、秘書たちが自分たちにしかわからない話題で盛り上がっており、そこに私が入れる隙間は一ミリもなかった。

 人見知りなどしないし、誰とでも仲良くなれるのが、私という人物なのだと思っていた。

 けれどそれは、父という強大な力が後ろにあったからだと思い知らされる。

 父の会社では、みんなが私に気を使ってくれていたのだ。

 そんなの関係なくつきあえたのは、中学生までの友達くらい。

 今頃そんなことに気づいた自分が情けなくて、ため息が出る。

 エレベーターに向かってとぼとぼ歩いていると、後ろから肩をつつかれた。

 驚いて振り返ると、そこには裕ちゃんが。

「裕ちゃ……副社長」

「誰もいないときは、いつもと同じでいい。今から昼食か?」

「うん」

 頷くと、裕ちゃんは「よし」と口の端を上げた。

「一緒に外に出よう。一時間で戻ればいいんだろ?」

「あ、うん……」

「近くの美味い店に連れていってやる」

 返事を待たず、裕ちゃんはなんと私の手をとり、方向を変え、重役専用エレベーターへ向かう。
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