極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~

 こんなところを誰かに見られたら、とヒヤヒヤした。けど、幸運なことに誰ともすれ違わなかった。

 無事に誰の目にも触れずに外に出て、裕ちゃんの後ろをついて歩く。

 会社の近くで、ベタベタしない方がいいよね。

 一緒に食事するだけでもどうかと思うけど……。

「オフィスラブって、周りに気を使って大変だね」

「ん? なにか言ったか?」

「いいえなにも」

 ビジネスマンやOLが多いビジネス街。通りには、彼らを狙った店が溢れている。

 裕ちゃんのことだから、きっとオシャレな人気店に連れていかれるんだ。困ったなあ、目立つなあ。

 歩きなれないヒールでとぼとぼ歩いていくと、いつの間にかあまり人気のない裏通りに入っていた。

「こ、ここ?」

 裕ちゃんが足を止めたのは、およそ彼に似合わない、小さな中華料理店。微妙な画質の料理写真を使用した看板が、なんとも安っぽい。中華らしく、黄色地に赤い文字で、店名が書かれていた。

「そう」

 からからと、これまた安っぽい引き戸を開けて裕ちゃんが店の中へ。

 ウソでしょ。激しく似合わない!

 ビックリしつつ、胸の中にはある期待が湧きあがる。

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