極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~
「どうした。口に合わないか」
訝し気に、裕ちゃんが私の顔をのぞきこんでくる。
「ううん。すっごく美味しい。ワンタンの海老がぷりぷりしてるし、おだしも深いっていうか、なんて言うか……」
笑顔を作って、むりやり麺をすする。
「……やっぱり、秘書課はしんどいか」
先に食べ終わって箸を置いた裕ちゃんが、控えめな声で言った。
「一番近いから、変なことはされないと思ったんだけどな」
「え、あの……」
「家でもあまり食べなくなっただろ。希樹が食欲をなくすなんて、仕事がよほど辛いんだろう?」
ばれていたんだ。
家でも平静を装っているフリをしてたつもりだけど、見抜かれていた。
「べ、別に何かされたわけじゃないから」
むしろ、空気のように扱われているのが苦しい。
「副社長の妻が職場にいて、秘書さんたちの方がやりづらいと思う。ストレス溜まっているんじゃないかな」
「ほう」
「私が来なくなればいいって、きっと思っているよ……」
口に出すと、途端に喉の奥が詰まるような感じを覚える。
「やっぱり私の考えが甘かった」
逆の立場で考える機会が今までなかったけど、重役の身内が職場内にいるのは、すごくやりづらいのだろう。
文句を言うわけにもいかず、こき使うわけにもいかず、持て余されているのをひしひしと感じる。