極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~
真剣な顔で聞いていた裕ちゃんが、口を開く。
「……社内じゃ、どこに行っても一緒だぞ」
「うん」
「辛いなら、辞めるか?」
単刀直入な質問の答えに詰まる。
秘書課のみんなのためには、すぐ辞めた方がいいんだろう。
でも、陸上のときもそうだったけど、そうやってすぐ楽な方に逃げていいものか。
「せめて、本当の名前を名乗れたら……」
他の仕事ができる。
それこそ、スポーツ教室で子供たちに陸上を教えるとか。部活のコーチを引き受けるとか。労働時間や謝礼は少なくとも、そっちの方がいい。
「もう少し、考えさせて」
苦し紛れにそれだけ言うと、裕ちゃんはうなずいた。
「……そろそろ、休憩時間が終わるな」
裕ちゃんは私の了解を取ってから、残ったワンタンメンを一気に平らげた。