極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~
席につき、生クリームがどーんと乗ったパンケーキを注文。健ちゃんの前には紅茶だけ運ばれた。
「いっただっきまーす」
日頃のストレスをぶつけるように、パンケーキにかぶりつく。
「美味しい~!」
ぱくぱくとパンケーキを平らげていく私を、健ちゃんは頬杖をついて見ていた。
「ねえ」
「何? あ、健ちゃんもほしい? ちょっとシェアする?」
「そうじゃなくて。希樹ちゃん、気づいている?」
小さな声で尋ねられ、目だけを動かし、店内を観察する。
窓際の席に、ひとりでコーヒーを飲んでいるスーツの男性がいた。頭髪は不自然なほど黒々と、そしてボリューミー。
「……あの人でしょ。乗せているのかな。植えたのかな」
「そうじゃない」
ひそひそと遠回しな悪口を言う私を叱るように、健ちゃんは頭をポンと優しく叩く。
裕ちゃんに似ている顔を見返すと、彼は言った。
「さっきから俺、希樹ちゃんって呼んでいるけど、まったく否定しないね」
息を飲んだ。
時間が止まった。
しまった。気が昂っていたせいで、自分が羅良のふりをしていることを忘れていた。