極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~
約二十分ほどで、目的地に着いた私は、料金を支払い、降車する。
目の前にあったのは、およそ羅良には似合わない、古ぼけた二階建てアパートだった。
壁にはシミやひび割れ、階段の手すりは錆が浮いている。
勇気を出して教えてもらった、二階の部屋のベルを鳴らした。
再放送のドラマでしか聞いたことがないような、『ピンポン』という音がした。
ドキドキしてドアをにらみつける。けど、返事はない。
人がいる気配すら感じられず、深くため息をついた。
「出かけているのかな……」
ここまで来て、空振りか。
どうしようか、悩む。
帰ってくるまで隠れて待っていようか。
それとも、後日出直すか……。
オレンジ色の夕日は沈みかけ、辺りが暗くなってくる。
「裕ちゃん……」
不意に、裕ちゃんの顔が脳裏に浮かんだ。
そろそろ帰って夕食を準備しなきゃ。
帰ってきたらマンションが真っ暗で、誰もいなくて、ご飯もないなんて気の毒だ。
でも、今日だけはそんな場合じゃないような気が……。
スマホを取り出し、遅くなる連絡を入れようか、迷う。
遅くなる理由を、なんて説明すればいいだろう。
うーんと唸っていると、古い階段の下で、アスファルトを踏むような音が聞こえ、顔を上げる。