極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~

「まだ同じパジャマ着てる」

「もう寝るだけだもん、いいじゃん。あ、今日はハンバーグ? いいにおい」

 母をかわし、コンロの上にあるフライパンを開けた。そこには、大好きな煮込みハンバーグが。

 ごくりと唾を飲み込んだ瞬間、玄関のチャイムが鳴った。

「お父さんだわ」

 モニターを見もせず、玄関へ駆けていく母。

 よし、父がそろったら晩御飯だ。

 ちょっとは手伝おうと、人数分の茶碗を食器棚から出した。そのとき。

「希樹、希樹―っ!」

 母の悲鳴が聞こえ、一驚すると同時に振り返り、駆け出す。

 もしや、強盗か。

 手に包丁──ではなく、なぜかお玉を持って、玄関に向かうと。

「……え」

 そこには真っ青になった父と、玄関で正座し、今にも土下座しそうな母がいた。

 そして父の後ろからふたりを見下ろしているのは……。

「ゆ、裕ちゃん」

 スーツを着た、仕事帰りっぽい裕ちゃんだった。

「門のところで偶然、お義父さんにお会いしてね。話をしに来たんだ」

 本人は神妙な顔をしている。

 そんなつもりないのだろうけけど、長身で顔が整っているので、真面目な顔で立っているだけで、威圧感を醸し出している。

 ああ……お母さんの言う通りだった。一日中パジャマでいてはいけなかった。

 戸惑いのあまり、わけのわからない後悔が押し寄せる。

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